menu

「早稲田で僕は少数派だと気づいた」現役選手・岸岡智樹が移動型ラグビー教室で全国を巡る理由

岸岡智樹のラグビー教室

代表:

岸岡智樹(きしおか・ともき)さん

大阪府枚方市出身。クボタスピアーズ船橋・東京ベイに所属し現役でも活躍中。ポジションはスタンドオフ(SO)。東海大仰星高校卒業後、早稲田大学に進学。在学中にジュニア・ジャパン、U20日本代表に選出。2021年から同教室を設立し代表を務める。JRFUのB級コーチ及びトレーナー及びセーフティーアシスタントの資格保有。中学、高校の教員免許も。

ひと目でわかる! チームの特色

  • 現役選手が指導する、移動型ラグビー教室
  • 地域格差の是正が目的
  • 基礎基本が身に付き、楽しさが増す

早稲田大学ラグビー蹴球部で、新たに持てた視点

活動拠点を定めずに、全国各地を巡り指導を行っている、移動型のラグビー教室があります。主宰者は、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ所属の現役ラグビー選手・岸岡智樹さん。早稲田大学進学が転機となり、ラグビーの地域格差是正のためにこのスタイルに辿り着いたという岸岡さんに、立ち上げた経緯や具体的な特徴、今後の展望などをお話しいただきました。

写真提供:岸岡智樹さん

 

ーまずは、移動型のラグビー教室を開催するまでに至った経緯を教えてください。

僕が社会人2年目となった2021年から毎年催しています。そもそも大学生の頃から、ラグビー界に対して何か新しいことをしたいとは思っていました。ですが、学生時代はなかなか動きにくい環境にあったんです。

それでも、ラグビーの楽しさや面白さを大勢の人に広めようと、4年生の時にSNSの発信を始めました。

自分で言うのもなんですが、大学ラグビーの選手では、先駆け的な存在だったと思います。しばらく続けていくうちにすごく反響をいただいた一方で、SNSに対してちょっとした疑問も抱いたんですね。なので次のフェーズに移ろうと、今度はFace to Faceのオフラインで何かをやりたいと考えました。

なぜなら、伝えるには不十分な面が、実はSNSにはあるのではないかと思い始めたからです。SNSは簡単に情報を拡散できることがメリットだと思いますが、僕に返ってくるコメントやリアクションは東京や大阪など都市部の方々ばかりだったのです。

これは、ひょっとしたら全てには届いていないのではないかと。そこで対面にシフトしていくべきと思ったのですが、「ここに来てください!」と呼びかけても多くの人は腰が重いですよね。だったら自分から行けばいいと、チームを組んでラグビーを教えながら全国を巡ろうと思い立ちました。

ーなぜ、大学在学中に新しいことをしたいと思われたのでしょうか。

早稲田大学ラグビー蹴球部に入部したことで得た気づきが転機となり、ラグビー界に何か恩返しをしたい、貢献したいという気持ちが芽生えたからです。

僕は東海大学付属仰星高校から、自己推薦(AO入試)で早稲田大学に進学しました。新入部員30名のうち多くが一般受験で、推薦は僅か3名でした。そのどちらでもなかった僕は、そこではっきりと気づいたんです。僕が進んできたルートは、実はすごく整えられていて、しかもそれは少数派なのだと。

一般受験で入学した部員は、情報も環境も十分とは言えなかったかもしれないなかで、切磋琢磨してきた人たちです。彼らこそが世の中の大多数であるとわかった時に、恵まれた環境でやってこられた自分は、このままでいいのかなと思ったんです。十分恩恵を受けたことで、今度は自分が次世代に向けて何かしたいと思いました。

そこで在学中にSNSを始めて、オフライン、そして移動型教室に辿り着いたのは先ほどお話しした通りです。
推薦者ばかりが集う他大の部活に入っていたら、僕は自分が恵まれていることに気づかぬままだったと思います。早稲田大学に行けたからこそ、持つことができた視点です。

指導者とラガーマン、どちらも選んだワケ

ー現役選手を続けながら、活動を始められた理由もお聞きしたいです。

というよりも、活動することが前提でした。それができるチームということで選ばせていただいたのがクボタです。もしかしたら、大学卒業後は実業団へ進むことが自然な流れと思われるかもしれませんが、社会人になってもラグビーを続けるか否か、実はすごく葛藤もありました。

僕はありがたいことに、リーグワン(JAPAN RUGBY LEAGUE ONE)に参加する複数の実業団から内定をいただくことができたのですが、進むべき未来は違うのではないか、と疑問符が立ったんです。

理由は、ラグビーの選手寿命と、その後のセカンドキャリアについて思うことがあったからです。リーグワンはプロ化に向けて構造から変わりつつありますが、現状、プレーヤーの多くは社員として仕事をしながら選手活動をしています。

引退後は仕事に専念するのが通例ですが、ラグビーの選手寿命は長くても10年くらい。社員としてのキャリアを考えると、その10年が大きなブランクになるのではないかと危惧したのです。であれば、社会人1年目から仕事をバリバリしていた方がいいのでは…。

考え抜いた結果、今しかできないことをやろう、というシンプルな結論に至りました。というのも、趣味として位置付ければ、ラグビーは40、50歳になっても続けることができます。でも、“リーグワンの選手”は、このタイミングでしか絶対にできません。ですから、その道を頑張ってみようと決めました。

ただ、結論は出したけれど、次世代に向けた活動をする決意もあったので、どちらも続けられる選択を取らせていただいたのです。

ラグビーをもっと好きになってほしい

ー改めて、移動型ラグビー教室について特徴を教えてください。

現役選手がみなさんの住むところへ出向いて行う、ラグビークリニックです。
未経験というよりは、初心者を含めて既にどこかのチームに所属されている小学4年生から中学3年生までのお子さんが対象です。

レベル別に2つのコースを用意していますが、上達することを目指すのではなく、ラグビーをより好きになるきっかけ作りをしたい、という思いで活動しています。

教室の内容はもちろんですが、僕自身も含めてテレビに出るような選手に会えたり、普段の練習場とは異なるグラウンドでプレーしたり、そういうことがモチベーションとなって、新しいきっかけにつながるのではないかと思います。

また、チームメンバーではない、新しい仲間に出会えることもポイントです。この先、ライバルや同志となるかもしれません。この移動型教室には、そうしたいろいろな要素が詰まっています。お子さん、親御さん、来てくれた方全ての満足度を高めたいと思っています。

開催場所は、地域格差是正が目的なので地方がメインです。2023年度は14か所に赴き、今年度も青森や鳥取、鹿児島等、まだ開催したことのない14か所を予定しています。いずれは都市を除く全国を巡りたいと思っています。

ー年齢や経験の有無などの参加条件はありますが、住んでいる地域は不問ですか?

はい。お住まいの地域は関係ありません。例えば開催場所が宮崎の場合なら、隣の鹿児島在住の方でも参加できますし、東京在住の方が旅行や、おじいちゃん、おばあちゃんの家への帰省がてらにいらしてもかまいません。

写真提供:岸岡智樹さん

 

昨年は3か所、つまり3都道府県に参加してくださった方がいます。ご自分の地域での開催がなかったからだと思いますが、毎回内容は同じなので、1回だけのご参加でもいいんですね。そのことをご理解していただいたうえで3回も来てくださいました。

フィーリングの部分で良さを感じていただけたのかなと思います。教室の良いところを具体的にお話ししてくださることも確かにありがたいです。でも、このように言葉にはできないけれど何かいい、という感覚はすごく大事だと思うので、そのようなお子さんがもっと増えてくれると嬉しいです。

ー毎回、場所も参加者も異なるので一概に言えないと思いますが、教室の雰囲気はどんな感じなのでしょうか。

本当にバラバラですね(笑)。参加動機も多岐に渡ります。僕に会わせたいからと親御さんがお子さんを連れてきてくださるケースや、逆に参加者ご本人が僕に会いたくて来てくれたケース、他にはママ友に誘われたからとか、子どもがラグビーをすることが楽しくなさそうだからと、参加を申し込んでいただいた方もいます。

ですから、雰囲気作りはすごく難しいんですけど、どんな子が来ても、最終的にはラグビーって面白いよね、と思ってもらいたいです。それはプレーに限らず、このイベントに対して思ってくれてもいいんです。明るく楽しく、笑顔が絶えない教室になるよう、常に心がけています。

ープロのカメラマンも同行されているんですね。

教室の様子を撮影してもらい、終了後に参加者のみなさんに写真をお渡ししています。後日、購入もできるようにしました。おかげさまで好評ですし、僕たちもメリットを実感しています。

といっても、参加者のみなさんはカメラマン目当てで参加されるのではなく、当日初めてカメラマンの存在を知るんですね。何が好評かと言うと、写真を見返すことで親子のコミュニケーションが増えることです。

僕はここ数年、親子の会話が減っていると感じていて、教室の行き帰りだけではなく、数日後に改めて「あの時はこうだったよね」と振り返っていただく機会を作りたかったんです。また、開催当日のモチベーションをもう1回ブラッシュアップしてほしくて、写真というツールを意図的に用いています。

写真提供:岸岡智樹さん

 

教師に向いていない。だけど、教えることが好き

ー指導方針を教えてください。

“ない”ことが方針かもしれません。というか、まだ作る段階ではないと思っています。たった年1回の教室で枠を作ってしまうと、そこに捉われすぎて満足度の下がる子が絶対出てくると思うのです。なので、臨機応変さはすごく大事にしていますね。

ただ強いて言うなら、スタッフ間の共通認識として、基礎基本を伝えましょう、というのはあります。スタッフそれぞれの考え方、やり方を全面に出してほしいと思うなかで、唯一の共有事項であり、活動の基盤となっていることです。

基礎基本を面白くないと思う子もいます。レベルの差はあれどみんな経験者ですから、「そんなの知ってるぜ!」という顔をされるんです(笑)。でも、「基礎ができていないと応用ができないよね」ということを、僕たちは選手であるから、身をもって教えられるんですね。これが僕たちの教室の一番のメリットでもあります。

それを見せると、子供たちの目の色が変わるんです。基礎基本はやらないといけないこと、実は自分はできていなかった、ということを自覚してもらう機会でもあるかなと思っています。

ー教員免許をお持ちです。教育実習のご経験が活きていることはありますか。

僕は教えることは好きですが、教師には向いていないことが教育実習でわかりました(笑)。というのも、長い時間をかけて伝えることよりも、スポット的に指導することが得意だとわかったからです。

年間計画で成長を見込むのが学校教育だとします。それは、例えば生徒がやるべきことを半分くらいしか達成できない日があってもいいんです。他の日に取り返せばよくて、トータルでクリアできればいいことですから。

でも、それが僕は苦手だったんですね。子どもたちに接する回数を減らして、その分集中的に成長させたいという思いが強くて、ですから1回ごとの移動型教室を考えたというのもあります。

ー基礎基本のことでもお話しされましたが、小4から中学3年生というちょっと難しい年代に入るお子さんたちに対して、気をつけていることや意識されていることはありますか?

教育実習でもそうでしたが、性別や体格等、本当にいろいろな子が集まるので、どこにレベルを合わせて指導するかがすごく重要になってきます。初級に設定すると、上級の子たちがほったらかしにされていると思うだろうし、上に合わせると下の子たちを置き去りにすることになる。

そこから僕が出した答えは、やや上に設定し、ついていけない子は他のスタッフがカバーすること。できるだけ下の子たちのレベルを上げ、全体的にベースアップしたいからです。チームで動く僕たちだからできる強みだと思いますね。

ただ、接し方は多感な年齢に加えて県民性も関係してくるんです。例えば関西、特に大阪だとみんな近寄ってきてくれる。でも、東北だとこちらが近づくと遠ざかってしまう(笑)。距離を作られてしまうことが多いんですね。その点が指導する面白さでもあり、やり甲斐にも繋がっています。

いわゆる指導要領を作ったとしてもはまらないので、作る意味がありません。僕たちが作るべきは、いかに臨機応変にその場で対処できるかの“引き出し”です。どんどん作り続けなければいけません。トライアンドエラーになりますが、指導者としての力量や資質が磨かれていく感覚がありますね。失敗もありますが、上手くいくと子供たちの表情が明るくなるので楽しいです。

学校に例えるなら、毎回が入学式初日のようなもの。短時間で全員を理解するのはとても難しいです。元気よく活動してもらいたいので、まとめすぎても楽しくない。そのバランスを見極めることが課題ではありますが、スタッフと協力しながら1回限りのチームを1つにしていきたいですね。

“続けるのも辞めるのも子ども次第”は結構ピンチ

ーどのようなお子さんに参加してほしいですか。

やっぱりラグビーが好きな子に来てほしいですが、「なんか好きじゃなくなってきてるんだよな」と思い始めている子も歓迎です。対極ですが(笑)、どちらのお子さんも好きな気持ちが増すと思います。

そして、保護者のみなさんもラグビーを好きになっていただきたいです。僕が小さい頃は、親がやっていたから始めた子が多く、家庭の中にラグビーが存在していたんですね。ですが、今の子たちは逆で、親はラグビーを知らないけれど、自分はテレビでW杯を見てラグビーをやりたいという状況が多いようです。

続けるのもやめるのも子ども次第というのは、チャンスであり結構なピンチでもあると思っています。だからこそ、親御さんがラグビーにハマることはすごく大事なんですね。僕たちはお金をいただいていますが、それくらいの価値はあると自信を持って言えます。ぜひ親子でラグビーに魅せられてほしいです。

ー最後に、岸岡さんが目指すラグビーとは何でしょうか。

生涯スポーツの1つになったらいいと思っています。そのためにも、楽しい、面白いと思ってもらいたいんですね。

なぜ長く続けてもらいたいかと言えば、ラグビーは社会の縮図とも言われるくらい、働くうえで役立つ、多くのことを学べるからです。人数が多いチームスポーツなのでコミュニケーション能力や、集団での自分の役割がわかる状況把握力、組織が動くための自分の強みの活かし方等が身につきます。でもそれらは、ラグビーを高校や大学まで続けないと得られないと僕は思っているんです。

今、W杯の影響で小学生の競技人口は少しずつ増えているにも関わらず、中学を境にやめてしまう子が2人に1人と言われています。中学以降の受け皿がどんどん減っているのです。なので僕はこの地域格差是正が、継続率低下や競技人口減の歯止めをかけられる対策のひとつになるかなと思っています。これからも積極的に活動していきます。

ご自身の輝かしい経歴や才能に決して驕らず、ラグビーの普及発展のために注力されている岸岡さん。教員を目指されていただけあり、ラグビーだけでなく、子どもたちに対する愛情も強く伝わってきました。対象年齢でチームに所属していれば、どなたでも参加することができます。一流の現役選手に直接指導してもらう機会は滅多にありません。詳細は下記のチームページやSNSをチェックしてくださいね。貴重なお話をありがとうございました。


岸岡智樹のラグビー教室
チームが気になったら…
岸岡智樹のラグビー教室
チーム詳細をみる▶︎