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実は、戸惑いがあります…明大テコンドー部の“日本一になった”コーチが明かす「葛藤と信念」

明治大学体同連テコンドー部

コーチ:

岩本聖(いわもと・せい)さん

明治大学テコンドー部創立者で初代主将。卒業後は競技を続けながら指導者となり、同部で現職の他、フィットネステコンドークラブを運営。テコンドー4段(テコンドー歴20年)。数々の全国大会で優勝を含め上位入賞の実績を誇る。

ひと目でわかる! チームの特色

  • サークルと体育会の中間的組織
  • 部員はほぼ初心者、楽しみながら日本一を目指す
  • チームビルディングを学べる

明治大学テコンドー部の創立者で初代主将を務めた、コーチの岩本聖さんにお話を伺いました。オリンピック種目でもあるテコンドーの魅力や、技術以外に学べる多彩なこと、部の雰囲気、指導方針などを語っていただきました。コロナ禍を境に大きく変わったこととは?

「足のボクシング」の異名を持つ、テコンドーの魅力

ー岩本さんはテコンドー部の初代主将であり、なんと部の創立者でもいらっしゃるんですね。

大学に入ったら格闘技、なかでもテコンドーを始めたいと思っていたのですが、明治大学には部がなかったんですね。やりたい衝動を抑えきれなくて、思い切って部を立ち上げました。と言っても、自分一人では到底できず、仲間に助けられながら設立しました。

2003年にサークルとしてスタートしましたが、紆余曲折を経て2007年、体育同好会連合会に準加盟しまして、そこから現在までサークルと体育会の中間に位置する団体として活動しています。双方の良いとこ取りと言いますか、文武両道の文字通り、学業とテコンドーの両立を目指し、楽しみながら大会でてっぺんを取ることを目標に掲げています。

部員はかつて70人くらいいた頃もありましたが、今は約20名です。練習は、生田キャンパスと和泉キャンパスの2拠点で行っています。それぞれ週2回、時間はどちらも主に授業の終わった夕方3時間になります。

ーさまざまな格闘技がありますが、岩本さんはなぜテコンドーを選んだのですか。その理由とテコンドーの魅力も教えてください。

僕は、祖母から「何でもいいから日本一になれ」と言われ続けていたんです。その言葉が頭に染み付いていまして、高校まで空手やボクシングをやっていたのですが、それらの頂点に立つのは正直難しいと思ったんですね。得意な蹴りを活かした格闘技はないかと模索中に、テコンドーの全国大会を観て、「日本一になれそう」と直感が働いたのです。

テコンドーは「蹴り技の格闘技」「足のボクシング」とも言われていて、仮面ライダーなどのアクションヒーローがやるような、華麗な蹴り技が大きな特徴であり、魅力だと思います。僕はその部分がかっこいいと思い、強くなれると惹かれました(笑)。

ですがそれだけではなくて、武道なので礼節を重んじ、礼儀をわきまえられますし、相手と戦う「競技」以外にも、表現を競う「型」があり、実は老若男女が楽しめるスポーツ格闘技でもあります。

また、オリンピック種目でありながら、日本においてはまだまだマイナースポーツであり、競技人口が少ないことも、日本一への道が近いと思った理由ですね。なかなか競技人口が増えないのは、日本が格闘技大国であることも大きいと思います。日本発祥の空手があり、国技に柔道や剣道があり、それらは習い事のほか教育にも取り入れられていますから。活路を見出すには、パリオリンピックでのメダル獲得が鍵を握っていると思います。

日本一を獲ったコーチの「大事にしている指導方針」

ー大学卒業後も競技を続け、2018年に74kg級で日本一になられました。見事、有言実行を果たした岩本さんの指導方針とはどういったものでしょうか。

大事にしていることは、大きく3つあります。それは、「礼儀」「mut(勇気)」、そして「信じ抜く力」です。

礼儀とは、人と接する際の正しい振る舞いですね。挨拶や感謝が含まれます。テコンドーができるということは、対戦相手がいて、練習環境が整っているから。ひいては家族やパートナーという大切な存在が自分を支えてくれているから、競技を行うということが成り立つわけです。自分を取り巻くもの全てに感謝を持つようにと指導しています。

元気よく挨拶ができて、「ありがとう」「ごめんなさい」をしっかり言える。当たり前のことを当たり前にできるようになり、いずれ社会に出た時に一人前にやっていける礼儀を学生のうちから身につけてほしいと思っています。

2つ目のmut(勇気)について。mutは勇気を意味するドイツ語です。全ての物事において、いくらすごい才能を持っていても、膨大な時間を費やしたとしても、勇気を出して前に踏み出すことに一瞬でも躊躇してしまったら、今までの苦労や努力が水の泡になる。一歩でも踏み出せば、景色が変わります。感動も与えられます。ですから、勇気を持ってほしい。実際に体現している姿を見せられればと思います。

最後の「信じ抜く力」は、完遂力とも言いますが、自分自身を最後まで信じてほしいということです。僕はその思いで部を作り、20年が経ちました。自分はできるという強い気持ちを持ってやり抜けば、全てではないかもしれないが、ある程度は叶うと思ってほしいのです。

それは、達成した後までの具体的なイメージを描くだけで、目標の半分は叶っているに等しいと思うんですね。

「できない」と初めから諦めていたらそこで終わってしまうから、自分のビジョンを持って、失敗してもそこからの学びがあるのでやり続けること。負けていても勝負に絶対はなく、どう戦いぬくかが大事です。

 

コロナ禍が転換期 大きく変わった学生への接し方

ーお話を伺っていると、サークルと部活の中間的存在でありながらも、一般的に想像する部活に近い厳しさを何となく感じます。ご本人に聞くのも何ですが、正直なところ、岩本さんは部員にとって“怖い存在”だと思いますか?

指導して16年になりますが、インカレで総合優勝を目指していることもあり、昔は厳しく接していました。ただ、オンオフをしっかり切り替えることを意識していたので、オフは20歳以上の部員たちならお酒を一緒に飲んで、ワイワイと楽しんでいました。

そこには狙いもありまして、振り幅の大きい人ほど、人として魅力があると思ってほしいんですね。そして自分を超えてもらいたくて、そのようにしていました。ですから、練習では怖い存在だけど、終われば身近な先輩感覚と言いますか、そのような関係を築けていたと思います。

ですが、コロナ禍や昨今の教育事情から、ある程度の距離感を取らなければいけなくなりました。それがなかなか難しくてコミュニケーションの取り方が現在の課題でもあります。

その一環として、「部員に伝えたい35のこと」と言うものを作って部員に共有したり、合宿では全員とライフプランについて面談したりしています。また、練習後に食事の時間を設けて、参加できるメンバーとコミュニケーションを取っています。

今も本当ならば引っ張っていきたいんですよ。ですが、先述した時代背景はもちろん、今の子たちは厳しい環境で育っていないので、苦しく痛く辛い練習には慣れていません。

ですから「どうしたい?」と希望を聞いて本人の意思を尊重しながら、練習内容や所作の意味から説明するようにしています。こういうものだと押さえ込んでしまうと、疑問を抱えながらやることになるので、それは解消するようにしています。

コロナ禍はリモートが多かったので、全体的に対人能力が落ちているように感じます。相手に合わせた声の大きさや、人を笑顔にさせる話し方などが難しいのかなと思いますね。ですが、今後テコンドーを通じて、国内外の試合等で色々な人と交流を持つことで、人間力は向上できると思っています。

ー岩本さん自身、大学からテコンドーを始められました。部員のみなさんはいかがでしょうか。

ほぼ全員が初心者です。経験者は4年に1人入ってくる程度ですね。新しいことをやってみたいと入部する学生が多く、球技やダンス、吹奏楽などの経験者もいます。また、勝ちにこだわる子もいれば、ストレス解消目的にミットを蹴っている子もいますね。真面目で誠実、素直な学生ばかりです。

最初は誰でも大変ですが、一方で誰でも身につきやすいのがテコンドーの良さです。また、左右対称の動作なので、身体操作やバランスが整いますよ。

ー先ほど挙げていただいた指導方針の他に、テコンドー部で学べることを教えてください。

チームビルディングですね。これはインカレ総合優勝という目標ありきです。テコンドーは階級別に分かれていて、各階級で1位になったら5点もらえるというポイント制度なんですね。それぞれの階級で戦い、トータルでポイントを一番多く得た大学が総合優勝となります。

それを成し遂げるためにはコミュニケーションがまず必要です。10月に試合があるので、逆算して練習計画を立てていきます。ここで大事なのは、楽しむこと。どう楽しんで勝利できるか、一致団結してフォーメーションを組んでいくのです。

初心者、自分を変えたい人、強くなりたい人、大歓迎!

ー最後に、どんな学生に入部してもらいたいですか。

自分を変えたい人、心身ともに強くなりたい人は大歓迎です。自分もかつて体が細くて弱かったんです。試合に勝ったり、海外で試合経験を積んだり、それらを重ねることでメンタル、フィジカルが鍛えられました。視野もグローバルになり、テコンドーのおかげで自分の軸となるものが出来上がったと思います。

これまで色々な学生を指導してきました。それぞれにドラマがあり、印象深い思い出はいくつもあります。なかでも、2代目主将を務めた子のエピソードがとても素晴らしいのでお話ししたいです。

僕は次期主将を女性に託しました。力の強い者が優位に立つ格闘技の世界で、その組織を女性が継ぐというのは大変なプレッシャーです。

彼女は引け目を感じながらも、がむしゃらに頑張ってくれていました。合宿の練習メニューや組織作りがうまくいかなかったりと、最初はたくさんの失敗があり、日々泣いていたことを覚えています。

それでも、思いを込めて日々動いているうちに、周囲がサポートするようになり、次第には応援されるようになった。さらに経験を積んで4年生になったら、1、2年生から尊敬される憧れの人となったのです。総じてチーム力も上がりました。

もともと力があったのでしょうが、人ってこんなにも成長できるのか、と驚きましたね。僕も彼女も、テコンドーによって新しい自分に出会えました。ぜひみなさんも、テコンドーに興味を持っていただけたらと思います。

ーテコンドーの技術だけでなく、人間力や礼儀、社会性も学ぶことができる明治大学テコンドー部。現在20名の部員の方々が2キャンパスに分かれて活動しているので、のびのびと練習ができそうです。本日は、貴重なお話をありがとうございました。


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