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ベスト8のうち早稲田大だけです…女子ハンドボール部コーチが語る「独特な環境が育むチーム力」

早稲田大学女子ハンドボール部

コーチ:

夏山陽平(なつやま・ようへい)さん

中学からハンドボールを始めて、法政大学第二高等学校在学中に神奈川県ハンドボール協会の高校男子・年間優秀選手に選出。その後進学した早稲田大学では、関東学生ハンドボール・春季リーグで優秀新人賞や優秀選手賞を受賞。卒業後も日本ハンドボールリーグの大崎電気で活躍。2019年より現職。

ひと目でわかる! チームの特色

  • 目標は全国大会でメダル獲得
  • 平日練習は学生主体、土日は経験豊富なコーチ陣が指導
  • 自主性や思考力が高まり、チーム作りを学べる

スポーツ推薦で入った選手はほとんどいません

今年2024年に創部20周年を迎える早稲田大学女子ハンドボール部。練習場所である同大学東伏見スポーツホールには、部員たちの活気溢れるかけ声や、シューズが「キュッキュッ」と床に擦れる心地よい音が響き渡っています。

コーチとして指導されている夏山陽平さんは同大学の男子ハンドボール部ご出身で、社会人リーグでも活躍されていました。女子部のコーチになり約5年、部の特徴やハンドボールの魅力、指導方針、今後の展望などを取材しました。

ー練習の合間は笑顔がよく見られますが、コートに入るとみなさんピリッとしますね。部の特徴や雰囲気を教えてください。

基本は学生主体で練習を行っています。というのも、フルタイムのスタッフがいないんですよ。私も教員ではなく、他の仕事をしていますので、指導は土日がメインです。ただ比較的、時間に融通がきくので、来られる時は平日も練習を見ています。

また、うちの大学として大きな特徴と言えるのが、スポーツ推薦をほとんど取らないことです。各学年に1人か2人くらいしかいません。これは関東リーグに所属している大学の中でも珍しいと思いますね。頑張って勉強をして入学し、入部してくれた学生が多いです。

ー入部希望者は誰でも入れるということですか?

セレクションも定員も、特に設けていないのでどなたでもウエルカムです。もちろん未経験者もOKです。当然ながら経験者と同じラインから始めることはできないし、最初は苦労を伴うと思いますが、徐々に慣れて経験値が上がれば、試合にも出られると思います。

ですから、経験や実力の幅があることは確かで、高校時代に全国優勝をした選手がいれば、大学からハンドボールを始めた部員もいます。ちなみに彼女は昨年のインカレで3点も取って活躍してくれたんですよ。他競技からの転向者も多く、高校時代はテニスをやっていた部員が今、試合に出場して頑張ってくれています。

また、進学校出身者が多いので、ハンドボール部に所属していたものの勉強に時間を費やすあまり練習ができなかったり、人数不足で活動できていなかったという選手もいます。それこそ、これまでスポーツをしていなかった学生も、意欲があればこちらは受け入れる体制でいます。

学生主体で練習を重ねて全国ベスト8入り

ー私学はスポーツ推薦で優秀な選手を集めるイメージがあり、そう考えると試合は不利になってしまう気がします。

対戦相手によっては、メンバー全員がスポーツ推薦で揃えている大学もあります。そういった相手に対してどう戦うべきか、みんなすごく考えるんですよ。例えば経験者である選手たちは、アウトプットをする。未経験者は吸収することができるし、経験者も自分の中で落とし込みができます。

先述した学生主体とはまさにこのことで、みんなが共に思考しながらよく話し合うんですね。ですから早稲田大学女子ハンドボール部は、競技の技術習得だけでなく、ひとりの人間として、すごく成長できる環境であると思います。

そのような状況で昨年は、インカレでベスト8に残りました。このうち、フルタイムで指導する監督やコーチがいないのは、おそらく早稲田大学だけだと思います。

ー学生主体のなかでも、核となるのは4年生でしょうか。

もちろんキャプテン主導の時もありますし、「自分たちは最後だから頑張りたい」と言って、4年生がリーダーシップを発揮してくれることも多いです。なので、4年生の雰囲気がそのままチームカラーになりやすいと言えるのかもしれません。

とはいえ、私はコートに入ったら学年は関係ないと思っています。下級生が上級生に意見するべきだと思うし、お互いが言い合える環境作りはすごく大事なことなので、コミュニケーションをよく取るよう意識して指導をしています。

ー今年度のチームカラーはどうですか?

まとまりで勝負、ですね。昨年はリーダーシップを取れる選手がいて、彼女が一生懸命にみんなを引っ張ってくれました。今年のキャプテンは、仲間のことをいっそう考える選手なので、チームワークが武器になるのではないでしょうか。昨年とは違った色が出せると思います。

僕はコーチであり先輩。そして異性というバリアを取っ払いたい

ー積極的なコミュニケーションの他に、夏山さんが大事にしている指導方針を教えてください。

学生主体に通じることですが、自分で考えてプレーできる、そして仲間のことを大切にする選手になってもらいたいですね。また、4年間の部活動を後々振り返って、キツいこともあったけれど、やっぱり続けてよかった、楽しかったと思ってくれる選手を育てたいです。

そのためには、「厳しさ」が必要で、やはり「勝利」も目指さないといけないと思うんですよ。全部負けていたら面白くないですから。勝つためにはどうするのかをみんなで考えて、それをしっかり言語化してほしいなと思っています。そして、少ないチャンスをものにして勝ちたいです。勝てた時は、僕自身もすごく嬉しくなります。

また、人間は弱い生き物だと僕は思っていて、どうしてもだるかったり、眠かったりして練習をするのがしんどい時が誰にでもあると思うんです。そこでどう頑張れるか、どうすればそんな自分を負かせることができるか、答えを見つけてもらえたらと思いますね。

ーそれを踏まえて、今年度の具体的な目標は何でしょうか。

メダルを獲得したいです。先ほどインカレでベスト8とお伝えしましたが、その成績は過去に3度ほど経験したことがあるんですね。ですが、全国大会でメダルを獲ったことが一度もないんです。そこで昨年は、ベスト8から一歩上にいこうという目標を掲げましたが、残念ながら叶いませんでした。

すごく悔しかったですし、僕たちスタッフの力不足で勝たせてあげられなかったという気持ちがあります。僕は、多くの課題が見つかりました。

ひとつは、アウトプットの仕方です。抽象的な表現を改めてわかりやすい伝え方や、メンタル強化をするうえで効果的な言葉選び等を学ばなければいけないと思っています。ハンドボールの技術的、体力的な指導法もさらに勉強したいですね。

ーコーチと選手のみなさんとの距離感についてはいかがですか?

比較的近いと思います。僕はまず、コーチはやっていることが違うだけで選手と同じ立場だと思っているんです。選手たちの技術向上やチームの勝利のために、足りないところを修正したり、アドバイスしたりすることが僕の役目だと思っていて、選手よりも偉いとは思いません。選手たちにもそう伝えています。ただ、「俺は先輩だぞ、OB会費も払っているぞ」とは言っています(笑)。そんな距離感です。

また、調子の出ない部員がいたら声をかけるようにしていますが、踏み込みすぎてもいけないと思っています。女性だとホルモンバランスが起因していることもありますよね。僕の知識がまだ足りないので、彼女たちもなかなか言いにくいと思うんです。

女性のコーチもいるので、今は彼女がフォローしてくれていますが、僕も自然に寄り添えるようになりたいと思います。もちろん、選手たちがストレスを感じないレベルに。どのスポーツも、女性特有のコンディション問題は切っても切り離せないことですよね。僕なりに理解をしっかり深めて、異性というバリアを取っ払っていきたいです。

ー休憩中のご様子を拝見して、夏山さんとみなさんの関係性はとても良いように感じました。

仲良くしていただいています(笑)。僕が話しやすいキャラクターということもありますね。もちろん、厳しいことも言います。ただ、僕は彼女たちを大学生といえども大人として扱っているので、「このことを判断したり、決めたりするのはあなたたちです」と付け足しています。

卒業後もつながりを保てる部活に

ー目指しているプレースタイルを教えてください。

今年度に関しては、ディフェンスにベクトルを向けつつ、全員で粘り強くハードワークをする、ですね。ハンドボールはチームスポーツなので、1対1の局面はありますが、ずっとその状態ではありません。1人に対して2人、もしくはキーパーと共に守ることも往々にしてあります。

みんなで戦略を立て、一丸となって戦う。そして、それを継続させることにこだわりたいですね。まだリーグ戦は始まっていませんが、僕はずっと言い続けようと思います。そして、みんなから応援されるチームを目指します。

また、指導方針でも触れましたが、入ってよかったと思える部活にしたいです。そう思った選手は、自分の後輩たちを応援してくれると思うんですよ。応援というのは、試合を観に来ることも、寄付活動もそうですし、社会人になってボーナスが入ったから焼肉を連れて行ってあげることでも。色々な形があると思っています。OGになっても何かしら関係を持ってもらえるとすごく嬉しいですね。

ーOG関連の話で言うと、創部20周年を記念して初のイベントを行うそうですね。

創部初期にいたOGが主催となって、6月に20周年記念の会を催してくれることになりました。そもそも女子ハンドボール部は、1938年に創設された男子部に比べると歴史がまだ浅いうえに、出産育児やご主人の転勤などもあり、どうしても関係値が薄くなりがちでした。

そういった背景のもと、このような会が女子単独で催されるのは初の試みです。仰々しい会というよりは、お子さんも連れて来られるようなアットホームな感じのイベントになる予定です。

現実的に難しいこともたくさんあると思いますが、男子同様に女子もOGとのつながりをどんどん強めていってもらいたいですね。

ー最後に、改めてこのチームで学べることを教えてください。

チーム作りを学べると思います。指導者が常にいる環境ではないので、変な話、サボろうと思えばいくらでもできるんですよ。ですがそのなかで、自分たちに発破をかけて高みを目指すことが、チームにとっても個人にとっても、大きな成長になり得ると思います。仲間同士で叱咤激励し合いながら向上していけるのは、この部ならではの大きな魅力だと思いますね。

ハンドボールを一生懸命やりたいという意欲があり、仲間を大事にできる人に入っていただきたいです。選手に限らず、マネージャーやトレーナーなど学生スタッフも募集しています。みんなで、ハンドボールを楽しみながら勝利を目指しましょう。

ー選手の自主性に任せているからこそ、団結力が生まれ強固なチームへと昇華する。フルタイムの指導者不在という環境は、一見デメリットに思えますが、人間的にも著しく成長を遂げられる大きなメリットと言えそうです。夏山さん、貴重なお話をありがとうございました。



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