水戸ホーリーホックユース
監督:
冨田大介(とみた・だいすけ)さん
1977年生まれ。山口県出身。筑波大学卒業後の2000年に水戸ホーリーホックに加入。4年間守備の要として活躍。その後、大宮アルディージャ、ヴィッセル神戸などを経て、2013~2014年、2018年にも水戸に在籍。2019年に現役を引退し、水戸のCRC(クラブ・リレーション・コーディネーター)に就任。翌年には関東サッカーリーグ1部所属・ジョイフル本田つくばFCの監督を務め、2019年に水戸トップチームコーチに。2023年からユースチーム監督を務めている。
ひと目でわかる! チームの特色
- 社会でも活躍できる人材を育てる
- トップチームとの近い関係
- 求める人材は主体的に取り組める選手
昨年から水戸ホーリーホックユースチームの監督を務める冨田大介さん。
指導で大切にしているのは「サッカー“も”できる選手」の育成。トップチームへの選手の輩出が最大の目的ではありますが、社会に出ても活躍できる人材育成にも力を入れていることが、水戸ホーリーホックアカデミーの特長だと冨田監督は言います。
技術の習得はもちろんのこと、主体的に行動して、サッカーに取り組むことを選手たちに求めています。
どのタイミングでどう伝えるか
ー2019年に現役引退後、トップチームのコーチを経て、昨年ユースチームの監督に就任されました。コーチと監督では立場が大きく異なると思いますが、どのようなことを意識していますか?
やはり、監督はコーチとは役割が異なります。監督は最終的に決断することが最大の仕事。とはいえ、一人で決めるというよりも、周りの意見を聞きながら、コーチ陣と選手と一つになってマネジメントしていくことが求められています。
ートップチームとユースの違いを教えてください。
水戸ホーリーホックでは「人が育ち、クラブが育ち、街が育つ」という言葉をクラブ理念としています。その中でアカデミーでは、「サッカーもできる人材の育成」をテーマに、次のコンセプトを掲げています。
・自己実現を目指す目標意識(サッカー・学校・将来の職業)
・組織(社会)の中の個人(他人と組織の中で「ひたむきに」生き、社会力を獲得すること)
・うまく生きるだけではなく、良く生きるための学習期間(人間力の向上)
将来的にサッカー選手としてだけでなく、社会でも活躍できる人材を育てるための指導を行っています。サッカーだけできてもダメ。まずは学校生活をきちんと送れるよう選手たちには求めています。勉強についても、しっかりやるように伝えています。
ー「サッカーも」というところで具体的な取り組みはありますか?
高校生の生活の環境は「学校」と「家庭」と「サッカー」の3つに分かれますが、サッカーを通じて何を学ばせるかを大事にしていて、私は技術よりも、人間力や取り組む姿勢などについて問いかけるようにしています。
ー英会話のレッスンもあるんですよね。
週に1回行っています。基本的には寮生中心ですけど、希望者は誰でも参加できます。
ー選手に対するアプローチで意識していることはありますか?
選手自身について否定しないことですね。問題を起こした時はしっかり注意します。でも、その選手の性格や人間性は尊重します。頭ごなしに叱ることよりも、何が悪かったかを理解させて、行動変容を起こさせることが目的であることを意識しています。
そこで大事なのはどのように伝えるかということ。伝え方などは選手によって変えるようにしていますし、伝える選手のメンタリティーがどういう状況なのかも気にするようにしています。
精神的に不安定な高校生なので、ネガティブになっている時期もありますし、反発しようとしている時期もあります。そういう時にどのタイミングでどう伝えるかを常に考えていますし、誰に伝えてもらうのかも意識しています。
ーすべて監督から伝えるというわけではないのですね。
キャプテンからは全体に伝えてもらうようにすることもあります。あとは、監督が言うより、コーチが伝えた方がいい場合もあります。コーチの方が選手との距離が近いので、気づくのが早いことが多いです。監督がすべて把握しているわけではないですし、気づかないこともある。だからこそ、コーチ陣との連携も大切にしています。
ー高校生は自我が芽生える時期ですからね。アプローチの仕方に繊細さが求められますね。
子どもなんですけど、大人の部分も大きくなっている年代。でも、認知や経験値が絶対的に少ないからこそ、自分の世界の中での正論を述べようとするんです。それが間違っているか、間違っていないかというより、その正論をその時に伝えるべきなのかどうかを考えさせるようにしています。
「ファミリー」の絆の強さ
ークラブの中でユースの立ち位置はどのようなものでしょうか?
トップチームで活躍できる選手の育成を一番の目的としています。
ですから、トップチームの森直樹監督や西村卓朗GMとコミュニケーションを取りながら、クラブとして大切にしてきたアイデンティティーを共有して、ユースの選手に伝えるようにしています。
具体的に言うと、技術の向上はもちろんのこと、アグレッシブにプレーすることや粘り強くプレーすること、そして、走り勝つことなどですね。自分たちが水戸ホーリーホックのエンブレムを身につけている限り、何を大切にしないといけないのかということを理解させるようにしています。
ー近年ユースからトップ昇格した選手が公式戦に出場するケースが増えています。
身近にいた選手がトップチームで活躍することはアカデミー選手にとって大きな刺激となります。ユースの選手の意識をさらに高めるために、トップに昇格した選手がユース時代にどういった取り組みをしていたのかを伝えることがあるのですが、トップで活躍していると、さらに説得力を持つようになるんです。また、当時のデータなども残っているので、定量的に選手たちに分かりやすくアプローチすることもできるようになっています。
ーユースチームの一番のメリットはトップチームの練習に参加したり、練習試合をしたりと、交流できることだと思うのですが、盛んに行われているのでしょうか?
水戸ホーリーホックはトップからジュニア(小学生)まで「ファミリー」という意識が強く、トップは積極的に交流を図ってくれるので、近い関係性を築くことができています。
ユース選手を積極的にトップチームの練習に参加させてくれますし、練習試合にも呼んでくれる。時にはオンラインでトップチームの選手と話す機会を作ってくれるなど、すごくアカデミーの選手を大切にしてくれている。その距離感はユースの選手にとって、いい刺激になっていますね。
技術よりも姿勢が大事
ーアカデミーとして注目されるのは、一昨年に新たにアカデミー選手とトップチームの若手選手用の選手寮が建設されました。また、新たなグラウンドが6月に着工して、来年には完成する予定です。充実した環境が整ってきましたね。
もちろん、大きな変化ですよね。環境の整備は選手たちのやりがいにつながっていると思います。いい環境でサッカーをすることが大きなモチベーションになる。あと、物理的に練習場までの移動距離と時間が短くなる。これも大きなことです。
ー以前は1時間ぐらいかけて通っていましたからね。
移動時間が長いと事故のリスクも高まりますから。そのリスクが下がることだけでもありがたいことです。
ー高校1年生から3年生までどういった指導を行っていますか? 学年別に分けているのでしょうか?
基本的に学年別ではなく、AチームとBチームという分け方をしています。学年よりも実力を重視しています。ただ、大会によって出場できる年齢が異なりますので、そこも考えながらチーム作りをしています。
また、たとえば1年生と3年生を比べると、フィジカルの差があります。技術力だけでなく、そういったことも総合的に判断してチーム分けをします。1年間チームを固定するわけではなく、随時入れ替えるようにしています。選手の状態やメンタルを見ながら、いいタイミングでAチームに上げてあげることや、状況によってはBチームに落としてあげることなども考えています。
ーユースチームは何人いますか?
3学年合わせて41名です。各学年平均13人ですね。
ーユースの下にはジュニアユースがあります。そこから昇格してくる選手はどのぐらいの割合を占めるのでしょうか?
半分ぐらいですね。残り半分がスカウトやセレクションで入ってきた選手です。
ーユースチームとして求める選手像は?
主体的にサッカーに取り組める選手です。技術よりも、姿勢が大事だと思っています。しっかりとした目標を持って取り組むことができているか。その意志を強く持った選手に来てもらいたいと思っています。
ーセレクションは毎年いつ実施していますか?
夏ですね。基本的に自分だけでなく、スタッフ陣と様々な情報を集めながら、人材を探しています。
ー県外から来る選手も多いのでしょうか?
います。選手寮に入って、通ってもらうようにしています。
目標はプリンスリーグ復帰
ー卒業後の選手の進路を教えてください。
基本的に全員がトップチーム昇格を目指してサッカーに励んでいます。でも、過去を見ても、トップチームに昇格できる選手は1年に1人いるかいないか、非常に狭き門です。3年生の途中で自分の夢が絶たれてしまう残酷な現実の方がはるかに多いです。
ただ、トップ昇格できなかった選手のほとんどが大学に進学する道を選んでいます。大学でサッカーを続けるか、続けないかは選手次第。寂しいですけど、続けない選手もいます。
昨年の3年生の中にはクロアチアに行って、プロチームと契約した選手がいました。誰かに頼るのではなく、自分で調べて、交渉して、契約締結に至ったんですから、すごいことですよ。
そうやって自分で考えて行動を起こせる選手を輩出できたことは、水戸ホーリーホックのアカデミーとして非常に喜ばしいことです。
クラブとしては、昨年ドイツのハノーファー96と業務提携して、トップチームの若手選手がドイツでプレーする道が開かれました。それも選手たちの大きなモチベーションになっています。
また、ドイツの指導者が来て、アカデミーの指導を行ってくれることもあります。海外との交流が増えたことも、選手育成に大きな影響を与えています。
ー最後に、現在のチームと冨田監督、それぞれの目標を教えてください。
IFA(茨城県)リーグ1部で優勝して、プリンスリーグ関東2部復帰が大きな目標です。
私自身は、水戸ホーリーホックとして大切にしているものをしっかり確認しながら、それをチームとして体現させていきたいと思っています。
ピッチ内の指導のみならず、ピッチ外の取り組みやトップチームとの近い関係、さらには海外との交流など様々な形で選手の成長を促す仕組みを作っていることこそ、水戸のアカデミーの強みと言えるでしょう。
これからどんな選手が羽ばたいていくのか。「育成の水戸」のこれからが楽しみです。
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