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営業マンからフリーター、そして教師に。小石川淑徳学園・飯塚監督「剣道を指導する情熱と覚悟」

小石川淑徳学園 中学校・高等学校剣道部

監督:

飯塚圭介(いいづか・けいすけ)さん

1983年1月21日生まれ、神奈川県川崎市出身。剣道錬士六段。5歳から剣道を始め、小中高大、そして現在も大会出場等、現役選手として活動中。中高では関東大会出場や県大会上位入賞などの実績も。大学卒業後は会社勤めをしながら川崎市内の中高で剣道部のコーチとして指導を開始、周囲の勧めもあり社会科の教員に。2021年より同校に着任、現職。

ひと目でわかる! チームの特色

  • “勝利のコツ”がわかる経験者が指導
  • 個別の練習法で着実に上達できる
  • 人間形成に大切なことを学べる

8年間の営業職を経て、30代で先生になりました

東京ドームにほど近い場所にありながら、喧騒とはかけ離れた閑静なエリアに佇む小石川淑徳学園中学校高等学校。創立132年もの歴史があり、中学は1クラス10名、高校も1クラス15名と少人数制のきめ細かな指導を受けられると評判の女子校です。

強豪のバレーボール部やダンス部など数ある部活のなかでも、部員が僅か3名ながら活動はもちろん、SNS発信も積極的に行っている剣道部監督の飯塚圭介さんに取材しました。“特殊”な経歴をお持ちの飯塚さんに、剣道や指導に対するアツい思いや部の魅力、剣道で得られること等をお話しいただきます。

ー30代で教員免許をお取りになったそうですね。ご経歴から教えていただけますか。

ちょっと特殊なんですよ(笑)。大学卒業後から8年間、一般企業に勤めて営業をずっとやっていました。その間も剣道は続けていて、月から金は営業マン、土日は剣道部のコーチという2つの顔を持っていたんです。

写真提供:小石川淑徳学園 中学校・高等学校剣道部 


 
コーチになったきっかけも、ちょっとユニークかもしれません。大学時代に元部員何名かと出身中学の剣道部へ練習をしに行ったら、恩師が異動されて指導者がいなかったんです。そこでOBが交代で教えることになり、そこから指導の世界に入りました。

次第に全国大会や関東大会出場などの実績を出すことができて、指導している生徒の保護者の方から、「先生になってほしい」と勧められたのです。

自分でも思うところがあり、教員になることを決意しました。ですが、仕事が忙しく、なかなか資格を取れなくて(笑)。思い切って会社をやめて、アルバイトをしながら勉強を続けて30代前半でようやく先生になれました。

ー教員を志すという、飯塚さんを奮い起こした“思うところ”とは何だったのでしょうか。

もっとしっかり剣道を指導をしたい、強い選手を育てたい、という思いです。

剣道が強い人って、剣道だけではなく、私生活がちゃんとしているんですよ。コーチだと土日しか接点を持てないけれど、教員になれば普段から接することができます。根底となる部分から関わりたいと強く思ったんですね。

夢に見た教師、最初の学校で受けた衝撃的なこと

ー念願の先生になられて、いかがですか。

なったのはいいですが、事はスムーズに運ばなかったです。教員になったからには、当然ながら剣道部の顧問を目指していたのですが、最初に勤務した学校には剣道部がなかったんです(笑)。なので所属道場で指導したり、知り合いの子にパーソナルで教えたりしていました。

そこから剣道部がある学校を探し、ようやくご縁をいただいたのがこの学校です。しかし、ここも実は部員がいなくて活動していなかったんですよ(笑)。ちょうど高校1年を受け持つことができたので必死に勧誘して、何とか新入生6名を集めることができました。全員が初心者でした。

当時「鬼滅の刃」が流行っていたので、クラス全員にまず、「鬼殺隊に入らないか?」と声をかけました。ですが女子校ということもあるのか、知らない生徒が結構いて響かないんですよ。

ですから次なる策ということで、日本刀について語りました(笑)。「刀から生まれた言葉って知ってる?」から始めて、「しのぎを削る」や「切羽詰まる」「元のさやに収まる」など。いろいろあることを伝えたり、西洋と日本の刀の違いや、新撰組にゆかりのあるお寺が隣にあることから新撰組の話もしたり。半ば強引に、「楽しいから一緒にやろう!」と誘い続けたのです。

6名でスタートしましたが、現在は高校生2名、中学生1名の3名に落ち着いています。今も全員が初心者で、しかもこれまで運動経験のない生徒ばかりです。

ー 部の特徴や雰囲気を教えてください。

剣道を知らない者同士だからか自然と連帯感が生まれて、和気あいあいと仲良くやっています。但し、稽古は真剣にやらなければ怪我につながるので、オンとオフのメリハリをつけて行っています。「面を付けた以上は、もう武器を持ってる状態なんだよ、その竹刀は刀だからね」と、あえて厳しく言うようにしています。休憩と稽古では雰囲気が全く違いますね。

練習は週5、6日で、土曜休みが多いです。月に3、4回、知り合いの学校に出向いて合同稽古をするようにしています。そこで練習試合も時々行っています。

1人でも多くの生徒に入ってもらいたいので、参加も週1からOKと、まるで「バイト募集! 要相談」みたいな感じで常に募っています。

また、多くの人に知っていただくためにSNS、特にInstagramをこまめに投稿しています。日々のことや試合情報、技の習得方法などを画像や動画で発信しています。こんなに小さい部活ですが、ありがたいことにフォロワーが3,500人を超えました(笑)。

写真提供:小石川淑徳学園 中学校・高等学校剣道部 


 
ー改めて、剣道の魅力とは何でしょうか。

ただの勝ち負けではないところにあると思います。

「打って反省、打たれて感謝」という私の好きな言葉があります。無駄なくしっかりと打つことができたかを反省し、自分の弱点を教えてくれたことで相手に感謝する、という意味です。

剣道はプロがないので、どこまで続けても剣道だけでご飯を食べることはできません。ですが、先述したように“人間形成の道”とも言われるくらい、人として大きな成長をすることができるのです。

剣道に限らず、柔道や空手など武道は、礼に始まり礼に終わるというところに、全てが詰まっていると思います。そこに魅力を感じますね。

勝敗に関して言うと、個人競技なので勝っても負けても100%自分のせいなんですね。勝つためにはどうすればいいのか、自分で考えることができる部分も剣道ならではだと思います。

内向的だった生徒が、剣道で変わることができた

ーその剣道を指導する魅力も教えてください。

生徒が人間的に強くなっていく過程を見られるところですね。

先述したように剣道と生活は絶対に切り離せないものです。正しい言葉遣いや挨拶、時間や約束を守ることのできる人間が、正しい剣道を身につけられます。言い換えれば、社会人になっても通用するような礼儀作法を剣道を通して教えることができるのです。

現在の部長はまさに体現してくれた生徒のひとりです。入部当初は人前で話せるタイプではなかったのですが、今はきちんと話すことができたり、集中して物事に取り組めたりと、責任を持って行動できるようになりました。

写真提供:小石川淑徳学園 中学校・高等学校剣道部 


 
また、ある部員の成長も忘れられません。彼女は、高校からの入学者で中学時代は不登校気味、入学当初は声も出せず、人と目も合わせられませんでした。それでも登校できるようになり、剣道部を選んでくれたんですね。

事前に保護者の方とお話しできていたので、彼女には強さを競うのではなく、形を覚える剣道形を提案しました。そして見事、最後までやり遂げることができたのです。

すごく良かったと思うのは、面のおかげでこれまで重く下ろしていた前髪を上げ、俯きがちだった顔も上げるようになったことです。というのも、前髪を下ろしたまま面をつけると段の審査に通らないから。また、下を向いた状態で竹刀で頭頂部を打たれると痛く、顔を上げて打たれると痛くないんです。

当初は閉塞感からマイナスに作用するのではと思っていた面が新たなお守りとなり、彼女は顔を出せるようになった。それは、心の開放も伴ったのではないかと思います。そこから、目も合わせられるようにもなりました。

保護者の方が後から教えてくれたのは、これまでいわば特別扱いを受けてきたけれど、剣道部では他の子と同じように接してもらい活動できた、と。続けられたのは、そのことが大きかった、と言っていただけました。

生徒の人生に関わることができるのが、私の大きなやりがいにつながっています。

ー生徒への接し方で大事にしていることもお聞きしたいです。

「壁にぶつかったら、それはもうチャンスだよ」と生徒たちに伝えるようにしています。

私は、スランプってすごくいいことだと考えているんですね。剣道には必ずいくつもの壁があって、それを1つ乗り越えたら次の段階にストンと上がることができるのです。

しかも、そこからはもう落ちないし、やり方や技術を忘れることもありません。ですから、着実にステップアップできます。私の役割はそれを諦めさせない、やめさせないことだと思っています。

また、礼儀はもちろん、剣道は打った打たれたで痛みが伴うので、相手の気持ちを考えて行動できる人間になってもらいたく、それらを意識して接しています。

写真提供:小石川淑徳学園 中学校・高等学校剣道部 


 
ー最初に陥りやすいスランプとは、どういうものですか?

足を踏み込んで打つ時に、竹刀を持った手と右足を同時に前に出すのですが、これがどうしても合わない、というのが最初にぶつかる壁ですね。剣道は普段の生活にはない動きをすることが多いんです。

ただやれ、では腑に落ちないですよね。ですから、理由を必ず説明して教えています。右足を前に出すのがなぜ基本なのかは、心臓がある左側を後ろにして刺されないようにするためです。そして、その体制を維持しながら、回り込んで相手を倒すのです。

部員が100人に増えても1対1の指導はやめません

ーその理屈があるのとないのとでは、確かに技の習得スピードに差が出そうです。特にこちらの部は全員が初心者ということで、より説明することが大事と言えますね。そもそも、未経験者が高校から始めることについてはいかがでしょうか。

一般的に考えると、高校の剣道部は経験者がほとんどだと思います。言ってみれば、前方で他校のみんながバーッと走っているんですよ。私たちは遅れてスタートしているぶん、彼らよりスピードを上げないと差は縮まらないし、追い抜けません。

当然ながら、最初から圧倒的に不利なんです。なので普通に指導していてはダメだと思い、筋力や性格等、それぞれの特性を考慮して、ひとり一人に合った技を集中して練習する、という方法を取りました。一見強気な子が意外と小心者だったりするんです。でも、それはそれで勝負できる技があるのです。

つまり、全体に向けた指導ではなく、1対1の指導を行っているので、気をつけるポイントが全員違うということです。そして、それぞれに教えている内容は全員が把握できるようにしています。ですから、お互いがやり方を教え合うこともできます。

みんな私の言うことに対して、素直に「やります!」と言ってくれるので、飲み込みも早いです。その甲斐あって、設立2年、防具をつけてからはまだ1年くらいの時に、団体戦で勝つことができて、目標にしていた都大会出場が叶いました。もう、泣いちゃいましたね(笑)。

ー少人数だからできる指導法ということでしょうか。

そうとも言えますが、例え部員が100人になってもこの方法を取り続けたいなと思っています。1対1を100回ですね。

これは1対1の飛び込み営業をしていた会社員経験がもとになっていて、教員になる時に決めた覚悟でもあります。私の授業もそうしています。企業相手にプレゼンしている感じですね(笑)。ですから、授業では全員を指すんですよ。一人ひとりにしっかり届く方法だと確信しています。

写真提供:小石川淑徳学園 中学校・高等学校剣道部 


 
ー最後に、どんな生徒さんに入ってほしいですか。

もちろん全員ウエルカムです。ただ、経験者であれば、これまで勝利したことのない子っていると思うんです。勝てなくてずっと悔しい気持ちを抱えているような。そういう子はぜひ入って勝つことの喜びを味わってほしいと思います。

僕はコーチ時代に勝つことができるチーム作りをしてきた自負があります。絶対に強い選手になれることを保証します、と断言したいくらい(笑)。もちろん、これまで勝ってきた子たちはもっと強くなれます。

一方で、ガツガツせず、楽しみながら剣道を教わりたいという子は、自分のペースで練習もできます。うちの学校は兼部がOKなので、剣道に少しでも興味があるなら入部してほしいですね。とにかく、損はさせません(笑)。

元営業マンというだけに、質問に対してわかりやすく、時折ユーモアを交えて答えてくださった飯塚さん。「必ず理由も説明してやり方を教える」という方針も合わせて、自分が中高校生だったらぜひ飯塚さんのもとで剣道に挑戦し、ご指導を受けたいと思いました。全くの初心者の方でも無理なく上達でき、剣道をさらに好きになれそうです。貴重なお話をありがとうございました。


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