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初の甲子園、忘れられないあの夏。共栄学園野球部・原田健輔監督「こんなことが現実に起きるんだ…」

共栄学園高等学校硬式野球部

監督:

原田健輔(はらだ・けんすけ)さん

浦和学院高等学校、共栄大学野球部出身。高校時代はチームとして春の選抜に2回、夏の甲子園に1回出場。卒業後は金融系企業に勤務。2010年、母校の共栄大学野球部のコーチに就任。2012年より現職。2023年、夏の甲子園初出場。

ひと目でわかる! チームの特色

  • 感動や勇気を与える野球を目指す
  • 筋トレ、食トレを重視した体作り
  • 粘り強さが持ち味、逆転勝利多数

専用グラウンドを持たずして、昨年2023年に夏の甲子園初出場を果たした共栄学園高等学校硬式野球部。今年で指導歴13年目となる監督の原田健輔さんに取材しました。

幾度となく訪れた転機を経て、現在の活動スタイルを確立された原田さんにチームへの思いや強み、忘れられないエピソード等をお話しいただきます。

選手の心身に変化が。アップデートした練習内容とは

ーまずは、チームの特徴や雰囲気から教えてください。

部員は1、2年生合わせて34名です(2024年11月取材時点)。毎年1学年20名前後を維持しています。大会や練習試合などで移動が多く、バスの定員を考えるとその人数が限度なんですね。

部員は、学校の所在地である葛飾区、足立区、江戸川区を中心に台東区や墨田区など、近辺在住の子が多いです。みんな共栄学園を第一希望として入ってくれていて、下町気質というのでしょうか、総じて元気がいいですね。そして、ひたむきに野球と向き合っています。

ー専用グラウンドがないとのことですが、練習はどのように行っていますか。

埼玉県三郷市側の江戸川河川敷にあるグラウンドを借りて練習しています。週の半分はそのグラウンドで練習し、残りの半分はウエイトトレーニングに時間をあてています。以前は朝に体作りを行っていましたが、2022年頃から放課後にしっかり時間を確保するようにしました。

というのもその年は、秋季大会予選の初戦で負けてしまったんですよ。これはやり方を変えなければいけないと思い、他の学校さんからもいろいろとアドバイスをいただいた上で、やはりしっかり体を作るという答えに辿り着きました。

でも、特別なことを始めたわけではありません。ベンチプレスやスクワットなど一般的な内容です。それらはこれまでもやっていましたが、朝の短時間だったのであまり意味がなかったんですね。なのでトレーニングの日を設けてじっくり行うことにしました。

体を作るには栄養面も重要なので、食事トレーニングも取り入れました。寮のある学校さんなら普通にやっていることかもしれませんが、この学校に寮はないので食堂に頼んで部員の朝食と昼食を作ってもらっています。

どちらもたんぱく質中心のメニューです。魚に多く含まれるオメガ3脂肪酸を摂ってもらいたいので、朝食はなるべく魚、昼はお肉をメインに出していただいています。

ー変化はいかがですか。

体力がついてきたのはもちろんですが、一番の収穫は粘り強い精神力が備わったことです。

怪我をしにくくなるとか、打球が強く飛ぶようになるとか。体が強くなることでのさまざまな効果を予想していましたが、精神面にも変化が起きたことは思いもよらぬ副産物でした。

翌年春の大会において国学院久我山戦の7点差からの勝利をはじめ、その年の甲子園初出場につながる夏の大会予選でも逆転勝ちが4試合くらいあって。今までにない気持ちの強さが身についたと思いましたね。

このようにチームが向上する転機は、2019年にも実はあったんですよ。ちょうどこの時も、試合に負けたことがきっかけでした。夏の大会予選での初戦敗退です。精神的にも肉体的にも追い込んでやっていた中での負けでしたので、ただ追い込むだけのやり方は正解ではないと考えるようになりました。

そこで、夏の練習量を半分に減らしたり、練習試合をノーサインで選手たちだけにやらせてみたり。これまでの活動は私が主導でしたが、選手主体に方針転換をしました。

そうしたら、選手たちの表情が変わり、前向きになったんですね。それまでは正直なところ悲壮感が漂う雰囲気でしたが、楽しそうにプレーをし始めたのです。その年の秋季大会はベスト8に入ることができました。

負けたことで得られる気づきというのは大きいなと私は思います。

勝敗よりも大事なことを試合前に共有

ーそのような転機があり、今のチームになったんですね。部員のみなさんは学校近辺にお住まいとのことですが、希望をすれば野球部に入部できるのでしょうか。

残念ながら、ここ数年は誰でも入れるというわけではありません。まず、先ほどお伝えしたように共栄学園を第一希望としてくれていることが大前提です。その上で、バス移動の都合により定員を1学年20人程とさせていただいていることもあり、申し訳ないですがその数を超えたらお受けできない状況です。

なので人数を適切に管理するためにも、入部を考えている生徒さんへは「中学在学中に所属クラブチームを通して希望を出してください」とお伝えしています。クラブチームさんにはたいてい進路担当の方がいらっしゃるので、その方とやり取りして入部を調整しています。ありがたいことに行動の早い子は、中2の冬頃から連絡をいただいています。

部員のみんなは、練習環境や指導方針なども事前に理解したうえで入学してくれた子たちなので、気合いや志の高さは相当なものだと思います。

その覚悟をさらに強固なものにしてほしいから、新入部員には「この部で野球をやりたいと思うみんなのその気持ちを大事にしていきたい」と最初に伝えるようにしています。

ーそうお話しされると責任感も芽生えますね。教育的観点からの指導方針というと、どんなことを考えられていますか。

おっしゃるように、自分の発言や行動に責任を持ってもらいたいと思っています。ですから部員たちへの意識づけを積極的に行うようにしています。

また、世の中はWin-Winで成り立っていると思うので、何かを与えられる人間になってほしいと思います。

与えるものは何でもいいのですが、野球を通してだと感動や喜び、勇気でしょうか。それらは日々の努力によって実を結びます。そしてその努力は、誰も見ていないところでどれだけ自発的に行動できるかにかかっていると思います。

そうした努力をしてほしいために、私は目標を数値で明確に掲げているんですね。投球や走るスピードなど、全国レベルで戦うための超えるべき数値をそれぞれ具体的に設定をしているのです。それは、普段の練習だけでは到達できません。練習以外の時間をどう使うかで変わってくるのです。

そこから素晴らしいプレーが生まれ、先ほどのプラスに働く感情を多くの方々に与えることができるのだと思います。

ベスト8で終えた今年度の秋季大会は、まさにそれを体現できたと思っています。最後の帝京戦はタイブレークの末に敗れましたが、選手たちの懸命なプレーは見ている方々に感動を与えることができたと確信しています。とはいえ、最後は自分たちのミスで敗れたので、選手たちは相当悔しかったと思いますけどね。

試合前にも部員たちに「共栄学園を応援して良かったと思ってもらえる試合をしよう」と必ず声をかけています。私は“結果が全てではない”とも思っているので、それは部員全員が認識していますね。

ー部員の方への接し方で心がけていることはありますか。

1つの言葉で、より多くのことを考えてもらえるような声がけを意識しています。どういう意味なのかな?と考えた上で自ら行動を起こしてほしいのです。人間誰しもそうだと思いますが、あれやれ、これやれと押し付けられるよりも、自分で考えて動く方が前向きに取り組めると思うからです。

ただ、高校3年間のうち部活動は実質2年半と時間がないことも確かです。なので全てを部員たちに委ねてしまっては、引退までに最適解を見つけられないものも出てくるでしょう。その辺りは時に私が方向性を定める等をして、バランスをうまく取っています。

部員たちが支持したのは、予想外の選手でした

ー毎年いろいろなドラマがあると思いますが、特に印象に残っているエピソードを教えてください。

それこそ、昨年初出場できた夏の甲子園にまつわる思い出は忘れられないですね。

予選の東東京大会をどう戦うか。ある選手の起用について、部員たちと私の意見が分かれたのです。もし私が自分の意見を押し通していたら、私たちは甲子園のグラウンドには立つことができなかったでしょう。それくらい大きな出来事でした。

メンバー決めはいつも選手間投票をやっているんですね。目的は、私が見ていないところでの部員それぞれの努力を自分たちで評価してほしいからです。でも、高校生なので好き嫌いで投票することもあり、あまりにも結果に偏りがあった場合は私から意見して調整をします。

この時もそうでした。渡邊修という、これまでの練習試合で全く打っていない選手がメンバーに入っていました。加えて、暑い時期にも関わらずピッチャーが3人しか入っていなかったのです。なのでキャプテンと主要メンバーを何人か呼んで、私は言いました。

「この暑さでピッチャー3人は少ないと思うが大丈夫か。お前たちの意見は尊重するが、入れるとしたら◯◯選手と◯◯選手だと思う。そしたら、誰を外すか? まず渡邊か?」と。

渡邊は努力をしているだろうが、大事な時に結果を出せていない。私なら彼を絶対に外すので、当然だろうと思い込んで言ったんですね。でも、キャプテンたちは「いや、渡邊は入れてほしいです」と主張しました。渡邊の陰ながらの努力をみんなが正当に評価していたんです。なので、渡邊はそのままにして2年生を外し、ピッチャーを入れました。

シード校だったので、予選は3回戦からのスタート。対戦相手は都立青山高等学校さんです。思いのほか良いピッチャーで、私たちは苦戦を強いられました。

同点で迎えた8回裏、攻撃の時のことです。負ける可能性が出てきて、みんなが選んだ渡邊をここで出そうと彼を代打に指名しました。すると、ここぞとばかりにヒットを打ってくれたんですよ。チームは勝ち越して、そのまま逃げ切ることができました。

その後の試合も渡邊は代打で5打数4安打と活躍してくれました。極めつきは、記念すべき甲子園での初得点が、渡邊のヒットから生まれたのです。あんなに打てなかった渡邊が、ですよ。こんなことが現実にあるんだと驚きました(笑)。

私が強引に渡邊をメンバーから外していたら、甲子園初出場は叶わなかったことでしょう。そのことを渡邊にも、彼のお母さんにも言いました。お母さんは、泣きそうになっていましたね。

渡邊がもともと努力家だったことはわかっていました。その力は受験の際も発揮していました。親御さんは都立に行ってほしかったようですが、彼はどうしても共栄学園に入りたかった。話し合いの末、特待ならと親御さんの了承を得て、彼は一生懸命勉強をして学力特待を勝ち取って入部してくれたのです。

決して器用ではありませんが、本当に努力できる子です。怪我をして練習ができなくても、普通ならクサるところを休まずに参加する。さらに、率先して道具の準備や片付けをしてくれる。もちろん、練習も誰よりも真面目に行っていました。

努力は無駄にはならない。彼が積み上げてきたことを、今後の糧にしてほしいと思いますね。

ー改めて、成長できる選手の特徴や共通点とは。そして、共栄学園野球部さんだからこそ学べることとは何でしょうか。

やはり、人が見ていないところで努力できること。その頑張りを喜びに感じられること。努力を楽しいと思える子が伸びると思います。

また、ゴールに辿り着く方法は1つではないということを学んでほしいですね。専用グラウンドのない我が部は環境に恵まれているとは言えません。それでも目標は達成できるし、それによって人々に勇気を与えられているということを知ってもらいたい。整った環境がないと成し遂げられないわけではないのです。

取材場所は、練習グラウンドである江戸川の河川敷。清々しい青空のもと、選手のみなさんは元気よく声を出して練習をしていました。「今日みたいな日はいいですが、遮るものがないので風が強い日は厳寒、夏は強い日差しが容赦なく照りつけます」と原田さん。選手のみなさんのがっしりとした体格は、筋トレ食トレに加えて、“恵まれていない”環境のおかげでもあるでしょう。「ゴールに辿り着く方法は1つではない」とは然り。来年のオンシーズンにはさらに大きくなった姿で華麗なプレーを魅せてくれることを期待しています。貴重なお話をありがとうございました。


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