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「主体性」と「創意工夫」で目指せインカレ常連校! 西日本工業大学ソフトボール部 鹿島健太郎監督の部活改革とチーム作り

西日本工業大学ソフトボール部

監督:

鹿島健太郎(かしま・けんたろう)さん

1988年生まれ、福岡県行橋市出身。中学、高校と硬式野球に打ち込み、大学進学後にソフトボールと出会う。西日本工業大学ソフトボール部監督就任後は部内の改革を進め、就任9年で全国大会出場を果たす。

ひと目でわかる! チームの特色

  • 率いるのは本格的なソフトボール「未経験」の監督
  • 伝統校が占める全国大会に2年連続出場
  • 部員たちの創意工夫で練習環境を整える

“本格的なソフトボール”未経験の監督が率いる西日本工業大学ソフトボール部が、就任からわずか10年足らずで全国大会ベスト16の快挙を達成しました。限られた練習環境を工夫で乗り越え、学生の主体性を重視した指導で躍進を続けています。

チームを率いる鹿島健太郎監督に、独自の選手育成法や工業大学ならではの強み、そして「ソフトボール愛」を軸にした未来像をうかがいました。

鹿島監督の経歴とソフトボールとの出会い

ー鹿島監督の競技歴を教えてください。

小学5年生のときに硬式野球のチームに入り、そこから中学、高校と野球に打ち込みました。その後、1年浪人して成城大学に進学。最初はアメフトに挑戦したんですが、怪我で続けられなくなってしまい、そこで初めてソフトボールと出会いました。
大学のソフトボール部といっても本格的な部活動ではなく、ソフトボールの経験が少ない人の集まり。練習も週に2回程度でした。
思いもよらぬ形で始めたソフトボールでしたが、いつしか夢中になり、頭の中は部活のことでいっぱいに。そのままソフトボール中心の大学生活を送り、4年生のときにはキャプテンを務めました。

“ヤンキー”が多いチームを全国レベルに

ー西日本工業大学ソフトボール部の監督に就任した経緯を教えてください。

大学卒業後3年間、会社勤めをしていたのですが、縁あって西日本工業大学(以下西工大)に転職しました。そのときに、ソフトボール部の顧問をしていた先生から監督就任の打診を受けたんです。

正直なところ、最初は戸惑いました。自分自身、大学でソフトボールをやっていたとはいえ、今のチームのような高いレベルではなかったですから。でも、「せっかくの機会だし、選手たちとともに学びながら挑戦しよう」と思って引き受けました。それが10年前のことでした。

ー就任当時のチームの状況はいかがでしたか?

当時の西工大ってヤンキーのイメージが強くて(笑)。練習は一生懸命やるんですけど、すぐに抜けて煙草を吸いに行ったり、試合中にデッドボールを受けたら威嚇をしたりと、やんちゃな選手が多い部でした。

ーそこから、チームが変わったきっかけをお聞かせください。

大きなきっかけは、5年ほど前に高知県から、高校ソフトボールの経験者が入学してきたことですね。それまで1回戦負けの連続だったのが、試合として成立するレベルになり、部員が少しずつ増え始めました。その後、国体で優勝経験を持つキャッチャーや中学校日本代表だった選手も加わり、チームの基盤ができました。

その選手たちの活躍もあり、初めて全国大会1個手前の西日本インカレ(西日本大学男子ソフトボール選手権大会)に出場できました。自分が監督に就いて7年目のことでした。

そのときは、彼らが日本代表で培った経験を共有し、お互いにソフトボールを学び合うなかで、少しずつ現在のチームが形作られてきました。その頃から、チームの方針も「楽しくソフトボールをやろう」から、「勝ちにこだわろう」にガラッと変わりました。

ー方針の変更に対して選手たちに戸惑いはありませんでしたか?

部内では、レクリエーション感覚で続けたいメンバーと、やるからには高いレベルを目指したいメンバーに分かれ、約半数が退部しました。残ったメンバー間でも衝突が絶えず、この時期がチームとしても自分としても一番大変な時期でした。
当時は、とにかく選手たちと議論を重ねました。コミュニケーションを取ることで、みんなが納得できる答えを探そうと思ったのですが、今までの何十年という歴史があるものを一気に変えるのは困難でした。

自作の室内練習場を作るプロジェクトを実行中

ー練習環境や部の雰囲気についてお聞かせください。

練習スペースは、サッカー場の半分程度の広さです。月曜と金曜の夕方、そして土日に練習しています。恵まれている環境ではありませんが、選手たちは「この状況でどうすれば強くなれるか」を自主的に考えるようになりました。

最近、選手たちが自発的に室内練習場を作るプロジェクトを立ち上げました。建築系、機械系、電気系の学生たちが、それぞれの専門知識を活かして練習場作りに励んでいます。これは工業大学ならではの取り組みです。

ーチームの特徴や、どのような選手が在籍しているか教えてください。

現在、4学年合わせて約20人の選手が在籍しています(取材当時)。各学年5人程度のバランスの取れた構成になっていますが、年によって多少の増減はあります。以前は高校野球経験者が多かったのですが、最近は高校でソフトボールを経験していた選手の入部が増えています。ベンチ入りが25名なのでちょうど20人を超えるぐらいが一番いいですね。これ以上増えると、僕の目が行き届かなくなりますね。

野球とは全く異なる「ソフトボール」の魅力とは

ーソフトボールと野球の違いについて、監督の視点から教えていただけますか?

ソフトボールと野球は全く別の競技です。ソフトボールは塁間が4メートルほど短く、スピード感も大きく異なります。内野手の動きも素早く、バッターのセーフティバントやランナーの積極的な走塁が特徴。守備位置も野球とは違い、例えばサードはベースより前で守ります。

ソフトボールというと、小中学校のレクリエーションを思い浮かべるかもしれませんが、競技としてのソフトボールは全く違います。大学男子のソフトボールは特に、球速やパワー、スピード感において独特の魅力があります。言葉では表現しきれないので、ぜひ一度見てほしいですね。

リクルート活動では名刺を受け取ってもらえないことも

ー高校生のリクルート活動についても教えてください。

リクルート活動を始めたのは、ここ2、3年のことです。それまでは、入学してきた学生たちと一緒にソフトボールをやるという感じでしたが、「勝ちにこだわろう」というチーム方針に変わった段階で、自分が高校に行って、監督さんたちに大学のソフトボールの状況などを説明して勧誘するという方向に切り替えました。

最初は本当に大変でした。どの高校に行っても、指導者に相手にされず、「西工大ってどこ?」という反応や、名刺さえ受け取ってもらえないことも。それでも諦めずに何度も足を運び、粘り強く交渉を続けました。

今では、九州のほとんどの高校の先生方と顔見知りです。少しずつ高校の指導者の先生たちにも熱心にやっているところが伝わってきたのかなと思います。

そういった人脈も、肩書きも、ソフトボールの経験もないところからの監督業スタートでしたが、だからこそしがらみにとらわれずにフラットな姿勢でいろんな先生のところに営業に行けたのが、今となっては良かったかなと思います。

ー大学ソフトボール界の現状や課題についてどのようにお考えですか?

新規参入の難しさは大きな課題だと感じています。全国大会に出場する大学の多くは、何十年も連続出場している伝統校です。新しいチームが全国の舞台に立つのは、本当に難しいです。去年の全国大会に出場した中で、初出場はうちの大学だけでした。

また、大学ソフトボールの認知度も課題です。高校生の多くは大学でもソフトボールを続けられると知らないのではないでしょうか。特に工業大学のソフトボール部は珍しいので、その魅力を伝えていく必要があります。

選手との対話を重視した指導方針

ー鹿島監督の指導方針についてうかがえますか?

学生の主体性を重視しています。大学スポーツなので、上からの一方的な指示は避けています。その代わりに、選手との対話を重視し、練習メニューも選手たちと一緒に考えます。

例えば、打順を決めるときも、選手たちの意見を聞きます。時には私の考えと違うこともありますが、彼らの意向を尊重することが多いですね。やはり選手同士の横のコミュニケーションがあり、お互いに理解しあっていると思うので。結果的にはそれがうまくいくことが多いです。

また、練習の意図や目的を丁寧に説明するようにしています。「なぜこの練習が必要か」を理解してもらうことで、練習の質も上がりますし、選手たちのモチベーションも高まります。選手たちとの会話を重ね、彼らが納得し、満足できる練習を行うことを最優先にしています。

ただ、最近の学生との関係づくりには難しさを感じています。以前のように飲み会などで交流を深めることが難しくなっているので、信頼関係を築くのに時間がかかります。大学生活4年間のうち、2年かけてやっと信頼関係ができて、3、4年生で厳しいことも言えるようになる、という感じですね。

僕が高校生のときは、監督の言うことは絶対だと思っていました。今は当時とは全く違う監督像になっていますね。これはおそらく、自分がソフトボール出身者じゃないことが大きく影響しているのかなと。未経験だからこそ、選手たちとの対話を重視する今のスタイルになったのだと思いますね。

求む!! ソフトボールが大好きな学生

ーチームの実績や今年の目標、今後の展望をお聞かせください。

昨年、初めて全国大会に出場し、ベスト16という成績を収めました。これは本当に大きな成果でした。今年は残念ながら全国大会初戦で敗退しましたが、今後はさらに上を目指したいですね。

また、ソフトボールを通じて地域貢献や普及活動にも力を入れていきたいと考えています。特に、中学校でソフトボールを続けられない生徒たちがプレーを続けることができる環境の整備を目標としています。

実績的な面ではインカレに毎年出場すること、チームとしては西工大でプレーしたいと思う高校生たちが増えることを目指しています。

ー西日本工業大学ソフトボール部で学べることは何でしょうか?

限られた環境をチャンスと捉える思考力と行動力を学ぶことができます。強豪校のような専用グラウンドがない環境でできることを選手、監督みんなで考えて、実行に移しています。ここで得られる経験は、ソフトボールだけでなく、将来社会に出たときにも役立つと思います。

ー最後に、どのような人に入部してほしいですか?

何よりも、ソフトボールが大好きな人にぜひ来てほしいですね。技術の上手い下手は関係ありません。ソフトボールが本当に好きだという強い情熱を持った人を歓迎します。

大学で部活をやる上で、大変なことは山ほどありますが、ソフトボールへの強い情熱がある学生は、どんな逆境にも負けません。
うちのチームの特徴や、恵まれているとはいえない環境を理解した上で、「ここで頑張りたい」と思ってくれる学生を待っています。そういう熱意のある学生たちと一緒に、さらなる高みを目指していきたいですね。

西日本工業大学ソフトボール部の成功は、鹿島監督と選手たちがともに築き上げた努力と情熱の賜物です。決して恵まれた環境ではない中で、自らの力で未来を切り開いてきた彼らの姿は、まさに挑戦と成長の象徴といえるでしょう。今後も彼らの挑戦は続き、さらなる高みを目指していきます。ソフトボールに魅了された学生たちとともに、鹿島監督が描く新たな物語がこれからも紡がれていくことでしょう。


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