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自由を尊重し「一流の日本一」を目指す。立教大学・中村剛喜監督が作る"楽しんで勝つ”組織づくり

立教大学体育会アメリカンフットボール部 St.Paul's Rushers

監督:

中村剛喜(なかむら・たけよし)さん

同大学同部出身。卒業後は一時的にフットボールから離れるも2007年、日本大学の応援に甲子園ボウルを観戦し奮起。Rushersを再び日本一へ導くべく2013年、監督に就任。株式会社ナカムラロジスティクス代表取締役。

ひと目でわかる! チームの特色

  • 一流の日本一を目指す「自由なチーム」
  • ファンダメンタル(基礎)を重視
  • 自ら考え選択し新しいチャレンジを

日本のアメリカンフットボールのルーツ校の1つであり、日本一を決める甲子園ボウルには6回出場、そのうち優勝4回を誇る古豪、立教大学体育会アメリカンフットボール部 St.Paul's Rushers(セントポールズラッシャーズ)。関東アメフト1部リーグTOP8に所属し、昨年の秋季リーグでは準優勝を飾りました。

12年前から指揮を取る監督の中村剛喜さんは、チームの特徴を「自由」と表現します。いろいろな解釈ができる「自由」を中村さんは、部員のみなさんにどう捉えてほしいのか。部への思いや指導方針などを取材しました。

自由という括りの中で、その年のカラーを自分たちが決める

ーRushersで長年指導をされてきました。どんなチームなのか、まずは特徴を教えてください。

ひと言で表すなら、自由なチームです。

とはいえ、何をしてもいいというのではありません。フットボールは集団競技なのである程度の決まりごとは必要です。なので、部員たち自身に決めてもらっています。そうした意味での自由です。自分で考え、正しいことを判断できる人間になってもらいたいからこそ、この形を取っています。

戦術を考える時は、コーチが理想的な形を提供はしますが、選手たちが丸覚えすれば完成というやり方ではありません。

フットボールは攻守に分かれて各11人で戦います。それぞれに役割分担がありますが、メンバーは毎年変わるので、一定の形にはめ続けることはできません。各々の経験や資質などを踏まえて、その年のチームの強みを最大限出すことができるようにコーチと選手たちとで作り上げていきます。

チームに見合った戦術を立てるには、各自の考えを共有し反映させなければいけません。そのためのコミュニケーション量はとても多いと思います。私たちはそれを“コンボ”と言っています。

部員の特徴としては、今年の4年生は真面目で有言実行できる子が多いですね。最高学年がそうなので、下級生はその姿を見習って育ってもらえればと期待しています。

ー戦術のお話が出ましたが、今年度のプレースタイルもお聞きしたいです。

どのチームさんもそうだと思いますが、まずは何よりもファンダメンタル(基礎)を重視しています。

もちろん戦略戦術をもとに戦いますが、最終的には1対1の勝負、どれだけファンダメンタルがしっかり出来ているかにかかって来ます。

そこが弱ければ、戦略や戦術も破綻して負けるし、逆に強固であれば、戦略で負けていても試合に勝利することもある。ヒットやタックルの形はもちろん、始動や静止の時の身体の向きや角度、腰や膝の位置に至るまで細かい部分のファンダメンタルにこだわっています。それは全てのポジションに共通して言えることです。

伝統をあえて"壊す”ことも大切

ー部の特徴でお話しいただいた「自分で考えて行動してほしい」ことは、中村さんの指導方針のひとつと考えていいでしょうか。

そうですね。与えられたメニューだけやっていても、チャンピオンにはなれないです。

自分の言うことも絶対正解ではありませんが、部員たちが何も考えず、ただ言われた通りに仕事をしていたら、そこだけは「ちがうでしょ!」と指導します。今のチームにとって、今の自分にとって最適な形を考えるよう指導します。

私たちの部は、日本におけるアメフトのルーツ校の一つで創部90年の歴史があります。伝統を受け継ぐとか守るとか、学生からも責任感からそういう言葉も出ますが、「そこは壊せ」と言っています。

先ずは自分たちで考える。そのうえで、変えない方が良いなら変えないことを決める。変える必要があるなら、躊躇せず自分たちで変えることを決めれば良いのです。

そのあたりはだいぶ理解しているようで、新しいことにチャレンジするというのは、さまざまな場面で自然に起きていると思います。

もうひとつ、私が部員に求めるのは、バックキャスティングをしっかりと意識することです。

ゴールとなる目標を立てて、そこに向けて、今自分がどの位置にいるのか。そして、限られた期間内にゴールするには、どうすればいいのか。掘り下げていくと、今日をどう過ごして、どう成長するのか。また、個人の目標にチームの課題や練習メニューをどう結びつけるのか。このように目標への道筋を明確にして、1日1日を大切に過ごしてもらいたいと思います。

それは、いずれ社会に出て会社という組織に入っても、同じように目標を持ってその瞬間を大事に生きて欲しいからです。会社にただいるだけの人にはなってほしくないのです。

「楽しんで勝つ」を模索して辿り着いたもの

ー甲子園ボウル出場6回、うち4回は優勝という輝かしい実績をお持ちです。近年は厳しい戦いが続きましたが、昨年、TOP8で準優勝と順位を上げました。お話しできる範囲で、要因というと何が挙げられますか。

チームに変化をもたらしたものはいくつもありました。これもある意味、新しいことへのチャレンジだったかも知れません。

それはとにかく、“楽しもう!”ということです。フットボールを楽しむ。これは単純そうで実は複雑で深い言葉で、自分自身も説明が難しいと思っていました。勝ったら楽しいのは当たり前ですが、それまでの練習は地獄のようにキツいわけです。

「"楽しんで勝つ”とはどういうことだろう」と考えていたら、OBであるスタッフが答えにつながる提案をしてきたのです。コミュニケーションスペシャリストという、意思疎通や情報伝達の指導を担っている彼が提案してくれたのは“チャンツ”というもの。これは、アメリカのフットボールで試合直前に行われる、モチベーションを上げるための儀式のようなものでした。

みんなでリズムを合わせて声を上げ、自分たちを鼓舞する。瞬間的に大声をあげることでお祭り騒ぎのような状態となり、高いテンションで次のアクションに挑める。それを毎日の練習から行うのはどうかと。

取り入れたところ、まぁ毎日盛り上がります(笑)。ワーッという声とともに何かから解放されて同時にスイッチが入る。それが習慣化され日常の動きが良くなりました。

しんどい練習が続く中でも、高い位置からのエネルギーの放出が可能になるのでしょうか。科学的な根拠があるのかないのか、ちょっと私には分かりませんが、部員の熱量が上がったのは確かです。そして、辛い時でも明らかに表情が明るくなりましたね。

昨年の4年生は特にマッチしたようで、すごく乗っかってくれました。彼らはもとの素材が良かったのと、ともすればマンネリ化しがちな日々の練習に変化が起きたことが良い結果につながったのだと思います。

今年度も同様に行っていて、やはり士気は上がります。チャンツはアメフトに限らず、いろいろな場面で応用が効くと思います。気分が乗らなかったり、集中力が途切れたりした時に、職場のみんなで声を上げる(笑)。ギアが入ると思いますよ。

失望から、本気のスイッチが入る時

ーこれまでお話しをいただいた中に多くの学びがありましたが、改めてRushersに入ると得られることとは何か。お聞かせください。

私たちは「日本一」という大きな目標を掲げています。これは本当に壮大な目標であり、現実にはまだまだ簡単には届かない位置にあります。ただ、多くの部員は意欲的にこの挑戦に取り組みます。

しかし、厳しい現実に直面すると、部員の中には「日本一なんて到底無理だ」と諦めかける子もいます。それでも、私たちは目標を変えず、何が何でもチャンピオンになろうと厳しい練習を続けます。

その毎日の厳しい練習を通じて、部員たちは徐々に本気のスイッチが入り、目標に取り組むようになります。4年生になってからこのスイッチが入る子も多いので「もっと早く入れろよ」と思うのですが(笑)、それでも確実に変化は起こります。
本気で取り組み始めると、部員たちは目標達成に向けたプロセスの価値を理解し始めます。これが真の成長の瞬間です。

私たちが単に「日本一」ではなく「一流の日本一」を目指す理由は、ここにあります。目標に向かって自ら考え、行動し、成長する経験をしてもらうことが、私たちの本当の目的なのです。「一流の日本一」という目標は、その経験を促すための手段なのです。

私の役目は、フットボールを通して、ゴールへ楽しく正しく導くことです。私たちはCOD(Chice of Dubの略)、「勝つための選択をしよう」を合言葉にしています。

Rushersでは、自分が決めた目指すべきものに向けて、段階を踏みながら一歩ずつ前進することの大切さが学べると思います。

自由なチームであることが大きな特徴のRushers。それについて中村さんは、「自由という“括り”の中で…」という言い方をされました。自由とは、制限なく何をしてもいいということではなく、自分で判断し道を選ぶという責任を担うこと。Rushersでは、フットボールを通して自由の意味の重さに気づき、自ら実行できる人間を目指します。その学びは大きな糧となり、卒業後の人生を色濃く豊かなものにしてくれるでしょう。中村さん、貴重なお話しをありがとうございました。


立教大学体育会アメリカンフットボール部 St.Paul's Rushers
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立教大学体育会アメリカンフットボール部 St.Paul's Rushers
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