「部員たちは悔しさが山積みだけど…」中央大アメフト部監督・杉江範之が伝えたい学び
中央大学アメリカンフットボール部RACCOONS
監督:
杉江範之(すぎえ・のりゆき)さん
中央大学附属高等学校に入学し、アメフトと出会う。その後、同大学に進学、卒業後は社会人クラブチームの東京ガスに入団。選手として活躍後、オフェンスコーディネーターを務める。2022年、中央大学アメリカンフットボール部OG・OB会の副会長に就任。2023年より現職。
ひと目でわかる! チームの特色
- TOP8に所属、日本一を目指す
- 「自らが考え選択すること」を重視
- 貴重な経験と一生の仲間を得られる
1967年に同好会から始まり、現在は関東1部リーグのTOP8に所属し日本一を志す中央大学アメリカンフットボール部RACCOONS(ラクーンズ)。強豪がひしめくなか、安定したチーム力を保つ秘訣とは何なのか。監督の杉江範之さんに、同部の強みや部員への秘めたる思い、大事にしていること等を取材しました。
獰猛になれないのが課題。でも、頼もしい一面も
ー昨年2023年、監督に就任されましたが、中央大との関わりはそれ以前からあるそうですね。
同大附属高等学校出身で、大学もそのまま進学し、高校大学共にアメフト部OBです。大学卒業後は社会人チームで選手とコーチをしていましたが、2022年にOBOG会の副会長を務めさせていただくこととなり、20年近い時を経て戻ってきました。副会長時に監督をやらないかと声をかけていただき、現在に至ります。副会長も継続させていただいています。
RACCOONSは同好会時代を含めて創立57年になりますが、他の部と比べたらかなり若いほうです。とはいえ、ここまで続けられているのは、元総監督の仁木高樹さんと、松永幸信先生という2人の功労者の存在のおかげでもあります。
運動部への昇格もエポックメイキングなことでしたが、様々な問題にによる低迷期に、チーム創設期のメンバーである仁木さんが監督として戻って来てくださったことにより、仁木さんを中心とする草創期のメンバーがチーム運営を支えて頂き、今日の土台を再構築して頂きました。
松永先生は、RACCOONSがTOP8に定着できるようになった礎を築いた方です。先生は私の母校である附属高に入職され、アメフト部を立ち上げてくださったのです。
そこから附属高がどんどん強くなっていき、数多くの卒業生が入ってくれました。スポーツ推薦に頼らず1部リーグにいることができた理由はそこにあります。ただ十数年前から附属高は共学となり、RACCOONSに来る生徒もぐっと減りましたが、何とか踏ん張ってTOP8にしがみついています(笑)。
ーそのような歴史を踏まえて、現在の部員の方々の雰囲気や部の特徴を教えてください。
部員は総じて、“賢くておとなしい”ですね。キャプテンの前田裕音選手を筆頭に、誠実でいい子が多いから、チーム全体が素直です。
素直でいい子が多い故に、戦う時に獰猛になり切れていないところがあるのかもしれません。周囲からも「中央の子は優しいよね。でも、優しさだけじゃ勝てないよね」と言われます(笑)。勝ちきれないことが多い一因は、そこにあるのかなと思います。それは反省すべきことであり、課題でもありますので、優しさと獰猛さを兼ね備えたRACCOONSになれたら良いと思っています。
ただ、ある意味頼もしさはあるんですよ。というのも実は、今年のシーズン中に指導体制が大きく変わったのです。突然のことだったので、普通なら戸惑いや疑問があって当たり前なのですが、彼らは素直に、かつ真摯に受け止めてくれました。気持ちを切り替えて、秋季リーグに取り組めているので、私にとってはそのこと自体がすごいと思っています。
また、100%の戦力が揃えば、どことやっても勝てる自信があります。個々の能力を考えれば非常に優秀な部員たちが多いです。肝となるのは、リーグ戦という長い期間、いかにチームの体力を維持できるかどうか。毎週、100%に近い状態で送り出せるかどうかにかかっていると思います。
「放棄したら許さない」ほど、大事にしていること
ー指導で心がけていることは何ですか。
基本的には、学生主体です。大学は教育の場であることと、日本ではフットボールでお金をもらうことはまだ難しいこともあり、当然ながら重きを置くのは社会に出る前の人としての成長、人格形成になります。
特に大事にしているのは、学生自らが選択をすることです。どうしたいの? 何がしたいの? いやもう極論、勝ちたいの? 勝たなくてもいいの? とそこから考えてもらうようにしています。
そうして、自分で考え選んだことが上手くいったらみんなで肩を叩いて喜びを分かち合い、失敗したらみんなで反省をして改善策を考える。それが人としての成長になると思います。
その過程を取り上げることはしたくないし、むしろそれを放棄したら許さないぞ、と思って接しています。「僕たちは決められない」と、彼らはけっこう言うんですよ。選んでいい権利が目の前にあるのに行使しないんです。それはダメだよと言っています。
また、チームに関わる全ての人間が、チーム活動を通じて社会に貢献できる人材になることもチーム理念としています。チームに関わる全ての人間が、それぞれの立場でチームの勝利に貢献するために日々努力をすることにより、年齢、性別に関係なく人として成長し、魅力的な人間になり、社会でも有意義な人材になれるのだと考えています。
私は指導する立場ですが、誤解を恐れずに言うと、監督が偉いなんて思ったことは一度もありません。監督も一つのポジションに過ぎないと考えてます。仁木監督や松永先生は尊敬すべき方々ですが、肩書きがあるからではなく、あくまでもこの2人の人間性がリスペクトする対象なんです。
私の言うことは絶対的に正しいとは思わないし、私が全てを決めようとも思いません。ただ、他大やスポンサー、連盟さんとの折衝など、ポジション的にやるべきことに対してそれ相応の立ち居振る舞いは必要だと思っています。
部員に対しては、話しやすい環境を意識しつつも、程よい距離感を保っています。必要なことはちゃんとコミュニケーションを取る、そんなスタンスですね。ただ電話なり、チャットなり、メールなり、彼らから来た連絡は基本的に即レスをしています。社会に出たら、求められることのひとつだと思うので。
後悔と悔しさの山積みが、もたらすもの
ーそのような指導と環境のもと、この4年間で得られることは何だと思いますか。
間違いなく、仲間は得られるでしょうね。同じ目標を持った同志には、打算なんてものはないです。働く目的が各々にある社会で出会うのとは全く違う。こんなフラットな状態でピュアに付き合える仲間というのは、今後ないと思います。
仲間とは友達、親友とは異なります。同じ目的、目標を共有し、その達成のためにチームの中でお互いの役割を自覚し、共に刺激し、協力しあって成長していくのが仲間です。
私の人生で親友と言えるのは、この部で出会った1人だけですが、RACCOONSの活動を通して知り合った生涯に渡り付き合える仲間が大勢います。それは人生の財産です。
新しく参加していただくみなさんにとっての仲間がきっと見つかるはずです。
もうひとつは、経験です。学生は、例え失敗してもやり直しがいくらでも効きます。そして、その成功と失敗が明確に表れるのがスポーツだと思うんですね。
我々がいるTOP8は、圧倒的な力の差があるわけでもなく、実力が拮抗していると言っていい。そこに位置し続けていることは、プライドや誇りを持てる一方で、「もうちょっと頑張ったら勝てた」「あと少し努力をしていれば勝てた」、そんなギリギリの敗北経験をいくつもしているということ。うちの部員たちの心には、後悔や悔しさが山積みだと思います。
それが、すごく得難い経験だと思うのです。課題が多いがゆえに、次はこうしようという対処法を考えることができるから。それは社会に出て困難な局面を迎えても、対応できる力になるでしょう。
チーム目標達成のために、チームの中で自分は何の役割で、どこでどうすればいいのか。それを考えて明確に説明することができれば、就職の面接でも困らないです(笑)。そういった意味の経験を数多く積むことができると思います。
ー最後に、RACCOONSはどのような人を求めていますか。
このRACCOONSで、仲間と一緒に成長したいと思う方に入っていただきたいですね。
大学アメフトは人材確保を含めて危機的状況にあると思っています。高校生の競技人口は、私の現役の頃と比べて約半分くらいに減っているのではないでしょうか。もっと裾野を広げて競技人口を増やさなければならないと危惧しています。
ですから、例えば関東地域で言えば、関東アメフト連盟が持つ大きな魅力、東京ドームで試合ができることをもっとアピールできたらと思いますね。あの広いグラウンドでプレーできることも、巨大なモニターに自分や家族が映ることも、人生の宝物になる素晴らしい経験になると思います。
昨年、我々は秋季リーグ6位という非常に厳しい結果に涙を飲みました。その悔しさも何もかも含めて、今シーズンはとても前向きに挑んでいます。彼らの懸命な姿を後押しできるよう、我々指導陣がすべきは、きちんとサポートをしていくということに尽きます。
とにかくうちで成長したいと思ってくれるなら、運動ができなくても、フットボールに興味がなくてもいいと思っています。RACCOONSというチーム、そこに集まる人間に興味があれば、そしてここで自分が成長したいなら、選手ではなくても、マネージャーやスタッフ等、いくらでも場は提供できます。そこにあなたの役割は、必ずあります。
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