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杉山愛「テニスで世界を目指すことが全てではない」言葉に隠された育成への熱い思い

Palm International Tennis Academy

杉山愛(すぎやま・あい)さん

4歳からテニスを始め、15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位を獲得。17歳でプロに転向し、17年間プロツアーを転戦。グランドスラムでは女子ダブルスで3度の優勝と混合ダブルスでも優勝を経験。4大会のシングルス連続出場62回は女子歴代1位。五輪は4回連続出場。WTAツアー最高世界ランクシングルス8位、ダブルス1位。’07年に同スクールを開校。’09年に現役引退後は国際大会の主催やJWT50理事等、テニスの普及や育成に貢献。’23年から女子テニスの国別対抗戦「ビリー・ジーン・キング・カップ」の日本代表監督に就任。

ひと目でわかる! チームの特色

  • 経験豊富なコーチ陣が“寄り添う”指導
  • テニスを通して人間的な成長を育む
  • 子ども、コーチ、保護者も課題や目標を共有

茅ヶ崎駅からバスに揺られること約15分。豊かな自然の中に、杉山愛さんの手掛けるテニススクール、Palm International Tennis Academyがあります。

生まれ育ったこの地に開校して約26年。数多くの大記録を打ち立てたレジェンドで、現在は日本代表監督を務められている杉山さんを筆頭に、大舞台を経験した一流のコーチ陣が集結しています。

テニスを趣味として楽しむ人から、関東や全国大会出場、ひいては世界進出を目指すジュニア選手、プロのプレーヤーまで。幅広い層に支持され続けている所以を、杉山愛さん、夫の走さんへのインタビューを通して紐解きます。
数あるクラスのなかでも、育成を目的としたアカデミークラスをメインにお聞きしました。

テニスは人間性が色濃く表れるもの。“素敵な人作り”を大切に

ーまずはスクール全体について伺います。目的やレベルに応じた、多彩なクラスがあるそうですね。

杉山(愛) 大きく分けると3つのカテゴリーがあります。お子さんから大人まで初心者から始めてステップアップできる、いわゆる「スクール」。まだまだ人数は少ないですがプロ選手をサポートする「プレイヤークラス」。

そして、公認大会本戦出場や世界を目指す中学生、高校生を育成する「アカデミークラス」です。

全カテゴリーを通して言えるのは、コーチの指導力と質の高さです。私を娘としてだけでなくプレーヤーとして育ててくれた母や、元日本代表で指導歴の長い山本育史ヘッドコーチをはじめ、現役で活躍中のプレーヤー等、経験豊かな指導者が揃っています。

それぞれに独自の教え方や得意分野があり、幅広く対応できることがうちの特徴であり、自負しているところでもあります。

ーアカデミークラスにフォーカスしますと、ある程度の技術が必要なのでしょうか。

杉山(愛) 部活では物足りなくて、もっと本格的に指導してほしい、と思うレベルの子が対象と言えばそうかもしれません。

杉山(走) ただ、技術や身体能力云々というよりは、私たちの思いや方針に、保護者の方も含めて共感し理解していただけることが重要だと思っています。

ですから、入る時点で実力が多少伴っていなくとも大丈夫です。高い意識とやる気があり、私たちに賛同してくれる子なら、後にしっかり伸びると思います。

杉山(愛) テニスというものをツールに、人間的な成長をしてほしいんです。アカデミーの指針として「スキルの向上を目指し、人間力を育む」を掲げています。

それにもとづき、「最善の努力をする」「フェアプレーを実践する」などの行動指針や、「楽しめている」「笑顔になれている」といった心得を示しています。クラブハウスの壁にも貼っていて、入会希望の方には全て目を通していただいています。

入会の流れはまず無料体験、その後、面接をさせていただきます。その際に指針のほか、プレーヤーとして目指すべき目標について等もお話します。

そもそもテニスは、人間性や精神的な部分が大いに関係する競技です。結果さえ良ければいいというわけではなく、“素敵な人作り”を私たちは大切にしています。

ー手厚い印象を受けます。

杉山(愛) コミュニケーションは、とても大事にしています。アカデミーには現在24名が在籍していますが、入会後もSNSツールを用いて、その選手と保護者の方、コーチから成るコミュニティグループをひとりずつ作っています。課題やスケジュールの共有、今後の方向性等についてディスカッションする場として活用しています。
これは、他のスクールさんにはあまりない特徴だと思います。

杉山(走) うちに合わせてもらうのではなく、その選手に合ったものをカスタマイズして寄り添うことを心がけています。

また、保護者の方も口を出していいというのがうちのスタイルなんです。「そのお子さんを一番見る時間があり、一番愛情と情熱を持っているのが親でしょう?」とは、愛の母がよく言っている言葉です。つまり、コーチと共に「お子さんを一緒に育てながら、親御さんも成長しましょう」というマインドです。

面接で「強くなるために全てをお任せします」と言う方がいるのですが、それだと別のスクールに通うのが良いと思います。

良いボールを打つだけではダメ。強くなるには…

ー選手の方たちへの接し方では、どんなことに気をつけていますか?

杉山(愛) 子どもたちは心が揺れ動く多感な時期にあります。うちにはいろいろなタイプのコーチがいるので、それぞれに話しやすい相手が見つかればいいのですが、それでも何かを抱え込んでしまうことがあるかもしれない。

そうした微妙な変化を感じ取れるように、その子の顔をよく見て、声をかけるというのは意識しています。そういう意味で、挨拶を大事にしています。

これだけ多くのコーチがいるというのは、それだけたくさんの意見を聞くことができるということ。こちらからだけではなく、子どもたちからも積極的にさまざまな声を吸収して、思考や視野を広げてほしいと思います。

根底にあるのは、先述した「人として素敵だなと思われる子を育てたい」という思いです。

ーその多様なコーチ陣による、レッスン内容を具体的に教えてください。

杉山(愛) 最新のもの、昔から良いとされているもの等、いろいろなドリルを組み合わせたプログラムをもとに練習をしています。そのプログラムがすごく工夫されていて、特に山本ヘッドコーチは素晴らしいものを作ってくれます。

テニスは、ただ良いボールを打つだけではダメなんです。心技体の全てが大きくならないと、勝利することも上達することもできません。

それを踏まえて、子どもたちには、特に自分で考える力を養ってほしいと思います。テクニック等の情報があふれている今の時代で、私が一番教えたいのはそれかもしれません。

広いコートを平面的ではなく、立体的にどう使うか。それこそ将棋やチェスのように先を読みながらどう進めるか。
さまざまな駆け引きがあるなかで、1球ごとに状況判断する力が必要であり、それがテニスの面白み、奥深さでもある。そういったことを極めていける子が強くなるかなと思います。

精神力も肝であることから、テニスはメンタルスポーツとも言われています。プレー中に嫌だな、辛いな、しんどいなと思った時にどうやって前向きに転換するか、どれだけ踏ん張れるか。そうした力も勝負を左右すると思うので、しっかりと発揮できるよう強いメンタルを持ち合わせてほしいです。

ーテニスに必要な力を高めると、日常生活でもいい影響が出そうですね。

杉山(愛) 例えば、気分が乗らない時の心の対処法が身につくかもしれません。

日常生活でもテンションが低い日、逆にノリノリな日は誰にでもあって、後者だと仕事もやりやすく、物事がうまく進むことが多いと思います。要は「何をするにも億劫な日に自分の気持ちを持ち上げてどれだけ頑張れるか」が分かれ道になる。そのスイッチが備わると思います。

ーちなみに、日常生活で杉山さんはどのように気分を上げていましたか?

私は、“小さなワクワク”を意識して見つけるようにしていました。今日は好きな友達がテニスの練習に来たらいいなとか、いつもより元気に挨拶してみようとか。本当に些細なことですが、意外と楽しめて、気持ちが軽くなりましたね。

人それぞれ違うので、やはり自分を知ることがとても大事だと思います。そこから、自分なりの気分の上げ方、楽しみ方を工夫するんです。答えがポンとあるわけでないので、自分で考えていろいろ試してみることが一番だと思います。

杉山夫妻の忘れられない「3人の少女が歩んだ軌跡」

ーこれまで多くのお子さんを見てきたと思いますが、スクールをやっていてよかったなと思うエピソードをお聞きしたいです。

杉山(愛) やはり、人としての成長をこの目で確かめられた出来事が記憶に残っていますね。

杉山(走) 中学入学のタイミングで、バレーボールからテニスに転向したいと入会してきた子がいます。彼女は物静かなタイプで家でも口数が少なかったそう。そういう子が珍しく自分からテニスをやりたいと意思表示したものだから、親御さんも彼女の気持ちを尊重したくて、いろいろ探したなかでうちを見つけてくれました。

入会してすごく真面目に取り組み、高校もうちに通いやすいよう、ここから近い学校に進学しました。もちろん向上心の塊のようなものだから上達しますよね。それも喜ばしいことですが、テニスを始めてから家庭内での会話が増えたことを、ご両親が何よりも嬉しく感じてくれていたんです。「これまで閉ざしがちだった心を開いてくれた」とおっしゃっていました。

テニスを通して、彼女は自信をつけることができ、人間力を高められたのだと思います。目指すはプロ一択ではないし、それが正解でもない。大事なのは、彼女が“彼女としての一番”になれたかどうか。

愛の好きな言葉に「Be the best you can be」があります。私たちは、それを1人1人に求めている部分があると思う。その子がその子らしくできればいい。比べていいのは昨日の自分であって、自分以外の人ではないんです。

昨日より今日、今日より明日、成長することの尊さを形にしてくれたのが、彼女だったと思います。そして、我が子の人間的な成長を親御さんが実感できたことも、我々の望むベストだと思います。

杉山(愛) 人生を自ら切り拓いたお子さんについても、ぜひお話しさせてください。彼女は、とても頑張り屋さんでテニスと学業をしっかり両立させていたんですね。そこから、高校受験で大学附属校に合格しました。ですが、卒業後はそのまま上の大学に進学できるというのに、もっと大きな世界を見たいと言って、アメリカへ留学を決意しました。

もう1人の子も、テニスである程度の成績を出していたので、自己推薦で大学へ進学しましたが、彼女もアメリカへ行きたいと言って留学したんです。
彼女たちがコーチにいろいろなことを話すことで頭が整理され、自分の本当にしたいこと、進みたい方向が自ずと見えてきた結果、このケースが生まれたのだと思います。

テニスを通して視野が広がり、将来につながる選択肢を増やすことができて、さらにそこから自分で選ぶことができた。そういった力を身につけてくれたことを誇りに思いますね。

杉山(走) 3人のお子さんの例を紹介して改めて思うのは、「自分としっかり向き合えるかどうか」。私たちはここをすごく重要視しています。

人間って、自分が嫌なことほど目を逸らしたくなると思うのです。でも、私たちはプロセスとして、そこもちゃんと直視する。その部分も含めて自分と向き合うことができた子が成功している気がするんですよね。だから、嫌なことを避けて楽な道へと逃げてしまう子は伸びないし、ここでは続かないんです。

ただ、「嫌なこともちゃんと直視する」指導というのは、厳しさ、いわゆるスパルタとは違います。強く言って従わせる方が指導としては簡単な場合もあるかもしれないし、子どもにとっても言われたことをただこなすだけで済みます。ですが、それは「自分と向き合う」ではなく「耐える」なのです。

杉山(愛) 大事なのは、自発的に行動できることなんですね。高みを目指すうえで目標設定をして、等身大の今の自分を受け入れる。そして、目標に向けて足りないこと、すべきことをきちっと整理する。簡単なことではないですが、自分がそうしたいと思えばやり遂げられるのです。

世界を目指すことが、全てではない理由

ーワールドワイドな視野の広がり方も、世界で活躍された杉山さんのスクールならではという感じがしました。日本全国にテニススクールはあり、優秀な指導者の方も数多くいらっしゃいますが、その中でも杉山愛さんは別格だと思うのです。

杉山(走) 杉山愛がものすごく近い場所にいる。僕は、究極のメリットだと思うんですよ。今は日本代表の監督業が忙しく、毎日オンコートというわけにはいきませんが、何かあった時、ちょっと相談したい時は、当然ながら愛に届きます。

杉山(愛) クラブハウスにはよくいるので、本当に気軽に声をかけていただければと思います。

杉山(走) もし世界を目指したいなら、サポート体制は整っています。具体的なアドバイスができるし、ネットワークを活かして人や学校の紹介もできます。

また、我々が開催している国際大会もあります。一般的に国際大会と言ったら、出場がとても難しいんです。でもその大会であれば、アカデミー生は優先的に出場機会を得られます。そういう意味では、ここに入れば世界は近いと言えるかもしれません。

杉山(愛) とはいえ、世界を目指すことが全てではありません。走が先述したように、その子にとってやりたいことを目標にすればいいのです。なぜなら、その子の人生はその子だけのものだから。

ー最後に、読んでいる方々にメッセージをお願いします。

杉山(愛) テニスを通じて人間的な成長をしてほしいと願う一方で、アカデミーが心の拠り所になってくれればいいなとも思います。ここに来ればホッとする、自分の味方になってくれる仲間がいる、と。

それは、学校や部活、家庭、友達と過ごす空間、何でもいいんです。そのひとつに、Palm International Tennis Academyも加わることができたら嬉しいです。

「杉山愛という看板を掲げただけの、名ばかりのスクールだと思ってほしくないんです」と走さん。次々とレッスンに訪れるお子さんと保護者の方々に、目を見て挨拶するお二人の姿や指導方針等を目にすれば、そんなイメージは瞬時に払拭されるはず。こちらのアカデミーは「子ども24名にテニスを教えている」のではありません。「1人の子どもにテニスを教えていて、それが24名いる」のです。個人に合わせた一流の指導ときめ細かなフォローは、杉山さんの愛がふんだんに詰まった証です。貴重なお話をありがとうございました。


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