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慶應義塾監督・前田晃「みんなに意識してほしいから…」アメフト部員に必ずかける言葉

慶應義塾体育会アメリカンフットボール部UNICORNS

監督:

前田晃(まえだ・あきら)さん

同大学同部出身。現役時代はLB後に学生コーチを担当。卒業後はさくら銀行ダイノスに所属。その後、慶應義塾大学にてオフェンス、キッキングコーチ、さくら銀行ダイノスにてディフェンスコーチを務める。2015年より慶應義塾大学のオフェンスコーチを経て、2020年、監督就任。

ひと目でわかる! チームの特色

  • 地道に鍛錬し最後まで戦い抜ける選手を育成
  • 責任を担い社会に影響を与えられる人間形成
  • 組織の中で自分の役割を見出すことができる

来年2025年に創立90周年を迎える慶應義塾体育会アメリカンフットボール部UNICORNS。今年度は新入生が58名も入部し、総勢156名で日々練習を積み重ねています。勝利に向かって、部員一人ひとりが意識していることは何なのか。監督の前田晃さんに、大事にしている指導方針やチーム力を高めるコツ、強み等を取材しました。

「粘って最後は相手を倒す」そんな戦いができるチームに

ーまずは、部の特徴や雰囲気を教えてください。

今どきの大学運動部にしては部員数が多いと思います。選手とスタッフ合わせて156人います。上下関係は比較的フラットですが、学年が上がるにつれて重要なポストに就く必要があるので、上級生になるほどに責任が増すことは、入部時からみんな感じ取っていると思いますね。

少子化に伴い運動部活に入る学生自体が減っているなかで、これだけ多くの部員を集められているのは、ひとえに幅広く声かけをしているからだと思います。

アメフトは野球やサッカー、バスケに比べて競技人口が劣ります。アメフト部のある系列校から一定数は入りますが、スポーツエリートと呼ばれるようなハイレベルな学生はほぼいません。うちはスポーツ推薦もないので、選手を確保しにくいのです。

なので、新歓の時期に他の競技をやっている子、やっていた子に声をかけて体験してもらい、入部につなげています。現在の部員数は、こういったことを地道にやってきた表れだと思います。

今年度は、日吉キャンパスの陸上競技場で対外試合を行いました。競技場はイチョウ並木の先にあります。入りやすく観戦しやすい気軽さも相まって、興味を持ってくれた学生が例年以上に多くなったと思います。

野球やサッカーを続けていて自分なりに限界を感じた人が新たな競技を始めるとしたら、一番入りやすいスポーツがアメフトなのだと思います。

なぜなら日本では、しっかりトレーニングを積めば、大学のタイミングからでも日本一を目指せるというイメージが浸透しているからです。

現に関東1部のトップリーグには東京大学さん、関西のディビジョン1なら大阪大学さん、神戸大学さん、京都大学さんと国立大学が3校も入っています。スポーツ推薦やスカウトのない大学が、こんなに多く上位にいるのは、この競技ならではだと思います。

ープレースタイルはいかがでしょうか。

粘り強く僅差で試合を続けて、最終的に相手より1点でも多く上回った状態となることが、スーパースターのいないうちのチームに合った勝ち筋だと思います。派手というよりは地味ですね。体力でも技術でも最後の最後に相手を負かして倒す。そんな戦いができればいいと思います。

5年ぶりに開催した4月の早慶戦では、水野覚太選手の華やかなプレーが注目を浴びました。ですが、たまたま目立っただけで、あのような立派な選手になるまでには何年もかかったんです。3年生の終わりにやっと日の目が見えたと言いますか、本当に努力の賜物です。

1年生からバンバン活躍できる選手というのは限られているので、地道に積み上げて最後まで戦い抜ける選手を数多く育てていきたいです。水野選手は、それを地でいっている感じですね。

その指導の特徴で言うと、学生コーチという役割があります。今は他の大学部活も取り入れていますが、うちは走りだったと思います。実は、私も学生コーチでした。

選手から学生コーチへ、葛藤から見えたもの

ー前田さんの在籍当時のことも含めて、学生コーチについてお聞かせください。

文字通り、選手にプレーを教える学生のことです。私の在籍時は、フルタイムの指導者がいなかったので、監督やコーチはボランティアで土日だけ見るというスタンスでした。でも、当然ながら平日も練習をしないと上手くはなりません。そこで、社会人コーチに学びながら、指導に近い領域を行う学生コーチができたのです。

また、アメフトはちゃんとしたスペックで環境を整えようとすると、ものすごい数のスタッフが必要になります。それを大学部活で用意するのは不可能です。人、モノ、金が足りないなかで工夫して生まれた知恵、仕組みでもあるんですね。

これは学生コーチに限らず、スタッフもそうです。今はスタッフ枠で希望者を募っていますが、かつては選手がスタッフとして支える側にもなり、チームを何とか回していました。学生コーチは現在も選手からの転向が主ですが、初めから志望しての入部も歓迎しています。

私の場合は、選手として入部しましたが、自分の意志とは関係なく声をかけられて学生コーチになりました。

学生コーチのポイントは、教えながら学ぶことにあります。社会人コーチから教わり、自分でも勉強して選手に伝えるわけですから。そして、専任になるので選手ではなくなる点も大きいですね。

ー選手をやめて学生コーチに。当時の前田さんに葛藤はなかったのですか?

もちろん、選手を続けたかったですよ。でも、当時言われた口説き文句がすごく腹に落ちて、割り切ることができたんです。

それは、プレーヤーとコーチ、それぞれがチームに貢献できることの違いについてでした。選手だと、貢献できるのは自分1人分の能力や成果物だけだと。でも、コーチになって優れた選手をたくさん生み出すことができれば、貢献や活躍に上限はない。チームが強くなるには、コーチの方が貢献できると言われて、「なるほど」と思ったんですね。

チームが能力を最大限に発揮するには、適材適所でなければいけません。ひとつのポジションに多くの人がいても、結局出ることができる人は限られるのです。

このことから、今の部員には選手、スタッフ問わず、「あなたがどこに行ったら、チームが一番強くなりますか?」と問いかけて、意識させるようにしています。

写真提供:慶應義塾体育会アメリカンフットボール部UNICORNS

“社会に出したい人材”とは

ー続けて、大事にしている指導方針もお聞きしたいです。

ただアメフトだけをしていればいい、という状態にはなってほしくないんですね。
チームが目標に向かって活動するには、いろいろな人によるさまざまな働き無くしてできない、ということをわきまえて動いてほしいのです。

アメフトは、多くの人が働く競技です。プレーヤーだけでなく、練習やトレーニングのメニューを作る人、怪我をしたら手当をする人、試合に向けて準備する人、イヤーブックを作る人…。普段から想像以上に仕事があって、それらをひとつずつ積み上げないとチームは当然ながら回りません。それが大前提であることをわかってほしいと思います。

また、部活動は競技だけではなく、人間として成長できる環境でもあります。活動をしていくなかで、いろいろな仕事を担うことで自分自身が磨かれて、人間的に大きくなって社会に出てほしい。できる限り、それができる環境を作ろうと努力しています。

そもそも部活動は、大学が求める“社会に出したい人材”を作るパーツのひとつだと思っています。“社会に出したい人材”とは、社会を変えたり、影響を及ぼすことができたりする人です。社会的責任を担う立場になり、リーダーシップを発揮できる人間になってほしいですね。うちは、大所帯なので社会の縮図のようなもの。多くを得られると思います。

ー選手やスタッフの方々への接し方で意識していることはありますか?

端的に言えば、宇宙人と思いながらやり取りしています(笑)。それは距離を置くというのではなく、彼らを理解できるように歩み寄るといった方が正しいです。北風と太陽ではないですが、昔のような厳しいノリで接しても、今の子たちは殻にこもるだけです。

また、報告すべきこととしなくてもいいことの区別がまだつかないと思うんですね。それもあって、些細な情報でも私の耳に入るよう、なるべく寄り添うようにしています。

ーその部員の方々についてお聞きします。系列校から入部する学生は一定数いるとのことですが、割合としてどのくらいになりますか。

系列校が4つあり、そこからの入部者は部全体で7割弱になります。やはり、一番多いです。ですから、外部受験による入部者は3割強ですね。

このうち、アメフト経験者は6割強です。意外と多いと思われるかもしれません。ですが、スタート時に差はあれど、他競技の経験者が多いこともあり、初心者のほとんどが半年ほどで追いつきます。

ただ、その中でも伸びる、伸びないに差は出ます。自分がやりやすいことに固執してしまうとそこからの成長が望みにくいかなと思いますね。選手に限らずスタッフにも当てはまりますが、それでしか仕事ができないのでは、すぐに限界が来てしまいます。もともと高い能力があっても、その枠を超えられないんですね。

ですから、まずは受け入れてやってみる。良い悪いは、やってみないとわかりません。アドバイスをもらったり、自分で研究したりして、「やってみよう!」とそこに手を出せる子は、成長する可能性が高いと思います。

U-20の日本代表に選ばれた岩戸旦和選手も、そういった向上心の高い部員です。恵まれた体格におごることなく、「どうやったらもっと良くなるだろう」という視点を常に持っていろいろと努力しています。今後も伸びるだろうと期待しています。

写真提供:慶應義塾体育会アメリカンフットボール部UNICORNS

大学アメフトの将来に危機感を覚えること

ー大学アメフト全体についての今後はどうお考えですか。

日本で言うと、まだまだ裾野が狭い競技だと思います。しかも、単独で試合に出ることができず、合同チームで出場する学校も出ている等、年々チーム数や競技人口が減少している現実に危機感を持っています。

裾野を増やすためには、ひとつに大学リーグの上に競技団体があればいいのではと思います。大学でアメフトをやめてしまう選手がとても多いんですね。

現在もXリーグやNFLというプロリーグがありますが、そこまで高いレベルではなく、社会人になっても続けたいと思う学生の受け皿になるものがほしいですね。

もうひとつは高校生以下の世代へのアプローチです。本格的なアメフトチームのある学校はほとんどが高校からで、その下の世代ではヘルメットをつけないフラッグフットボールという競技をやる子が多いんですね。そこからアメフトを知り、繋がっていくといいと思います。

それには試合をやって、試合に触れる人をひとりでも多く増やしていく。地味な話ですが最終的には、ここに行き着くのではと思いますね。

ー最後に、改めてこちらの部活で学べること、得られることを教えてください。

ひとつの目標に向かって、集団が一丸となって進んでいくというのが、うちの部の特徴だと思います。そういった大きな組織の中で、どうやって自分を成長させられるか。模索しながらも見つけることのできる環境が整っていると思います。

まずやってみる、挑戦してみる。そういう気概のある学生を待っています!

「あなたがどこに行ったら、チームが一番強くなりますか」。学生に限らず、前田さんの言葉にドキリとした人は多いのではないでしょうか。組織に属すること。それは、言わずもがな組織のために動くということ。かつての前田さんのように最初は不本意と感じる場合もあるかもしれませんが、それこそが自分の輝ける場所と言えるのかもしれません。アメフトを通じて、学生のうちから、このような学びを得られるのは、社会に出た時の大きなアドバンテージとなるでしょう。実りある充実した4年間を過ごせそうですね。貴重なお話をありがとうございました。


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