fair hope(フェアホープ)バスケットボールスクール
代表兼コーチ:
伊藤良太(いとう・りょうた)さん
子どもたちの機会格差問題に取り組む団体、fair hope創立者。小学校4年生からバスケットボールを続け、全国屈指の強豪校である洛南高等学校、慶應義塾大学へ進学。卒業後、実業団チームを経て2017年にRBC東京、2018年に岐阜スゥープス、2019年から3年間は岩手ビッグブルズでプレー。2022年に一度現役を引退し、2023年7月にしながわシティで復帰し、キャプテンを務める。
コーチ:
川口史高(かわぐち・ふみたか)さん
小学3年生からバスケを始め、佐世保北高等学校から筑波大学へ進学。卒業後は東洋英和女学院中学部・高等部の教師を務めながら同校バスケ部監督として指導。RBC東京の元キャプテンでもあり、在籍時はクラブ選手権全国大会優勝に導く。他にプレーヤーとして2つの3x3チームと、3on3のチームに所属。2023年、fair hope女子バスケットスクールのコーチに就任。
ひと目でわかる! スクールの特色
- 実績と指導力に優れたコーチ陣が指導
- 女子バスケに特化、初心者からOK
- 楽しみながら上手くなることを重視
ジュニア世代のクラブチーム数が少ないと言われる女子バスケットボール界に、ひと筋の光明とも言える新星が誕生しました。
昨年2023年、六本木に開校したfair hopeバスケットスクール。大きな魅力は、現役Bリーガー・伊藤良太さんと、SB-2リーグ(旧:地域リーグ)チームの元キャプテンで体育教師・川口史高さんによる実践的指導です。お二人にスクールの特徴や強みのほか、運動部活動の地域移行についてもお話を伺いました。
バスケットをやりたい子すべてにプレーする機会を
ーまずは、なぜ現役のプロ選手がスクールを作ったのか、経緯からお願いします。
伊藤 子どもたちの機会格差を解消したいという思いがずっとあり、バスケットをしたい子は誰でも参加できる場を作りたいと、昨年2023年5月5日の子どもの日に開校しました。
住む場所や環境、障害等で、やりたいことができずに諦めざるを得ない子どもたちがたくさんいるということを、あることから知ったんですね。
未来ある子どもたちの選択肢を狭めてはいけません。そこでスポーツを切り口に、すべての子どもたちに公平な機会、場所を提供するべく、fair hopeという団体を立ち上げました。バスケットボールスクールはそのプロジェクトのひとつという位置付けです。
実現できたのは、僕がかつて所属していたRBC東京の元チームメイトで先輩でもある、現役教師の川口先生(川口さん)のおかげでもあります。
きっかけは、2年前のこと。私は現在Bリーグのしながわシティでプレーしていますが、当時は一時的に引退し会社勤めをしていたんですね。それでも、バスケットに何かしら携わりたいという思いを抱いていました。
そこで、土日にコーチとしてどこかの部活等で指導できないかと川口先生に相談したところ、川口先生が監督をされている東洋英和女学院中学部・高等部バスケ部の外部コーチをやらせていただけることになったのです。同時に、子どもの機会格差の課題についての私の考えやビジョンもお伝えしました。
川口 指導を始めてもらったら、良太(伊藤さん)が「生徒たちの熱量がもったいないですよね」と言ってきたんです。うちは、活動時間をなかなか長く取ることができず、短時間でも成果が出るような効率の良い練習法を心がけています。
ですが内容は濃くても、体力気力は有り余っているようで(笑)、練習終わりにスキルや動きについてよく質問が出ます。「バスケットをもっと知りたい! プレーしたい!」というモチベーションがすごく高いんですね。
そのような状況と良太の思いが合致して、限られた時間ではあるけれど、スクールを作ろうと。そこから、fair hope(フェアホープ)バスケットボールスクールが生まれました。
子どもの主体性を育み、確かなスキルを伝えたい
ー具体的に、スクールの特徴を教えてください。
伊藤 小学生から高校生までの女子を対象としています。活動場所は東洋英和女学院中学部・高等部で、部活動後に空いた体育館を使用させていただいています。練習回数は月2回を基本に最大4回(体育館の空き状況により変動あり)、練習時間は1回につき1時間半となります。
川口 うちの部員のように、部活動にプラスしてバスケットをしたいということだけでなく、始めたいけれど学校にバスケ部がない、専門の顧問がいなくて満足いく練習ができない、部活をやめたけれどバスケットは続けたいといった、さまざまな悩みや事情を解決できる場を目指しています。
女子と限定しているのも理由があります。活動場所が女子校という点もそうですが、男子は比較的バスケットをできる環境が充実しているんです。そもそもチーム数が多いですし、社会人チームも育成年代の男子を受け入れてくれるところはありますから。ですが女子は少ないので、もっと門戸を広げるために女子限定としています。
最近スクールに入ったうちの部員が、「いつもの部活の厳しい空気とは違って、めちゃくちゃ楽しい雰囲気!」と驚いていました(笑)。中学高校の部活って上下関係があり、ピリリと空気が張り詰めたハードな練習環境というのがデフォルトであると思うんですよ。でも、スクールはそうしたくなかったんです。純粋にバスケットを楽しみながら上手くなる空間作りをしています。
ー指導で心がけていること、大切にしていることは何ですか。
伊藤 何よりも子どもの主体性を育むことを重視しています。なのでまずは、子どもたちに目標やなりたい人間像を聞くようにしています。自分たちは、そこへ向かう子どもたちに伴走する役目かなと思っています。
もちろんバスケットスキルや考え方は伝えますが、全てを教えてしまったら子どもたちに余白がなくなってしまう。自分で考えて動くことができる人間になってほしいので、そのためにも問いかけを意識して行っています。
川口 良太は、会社員時代は人事責任者もやっていて、今のしながわシティでもキャプテンです。彼は、本当に聞き上手、引き出し上手なんですよ。
プレーとプレーの合間の時間に生徒をつかまえて話をしてくれるのですが、「今のはどう考えていたの?」とその子の気持ちや、こちらが本当に知りたい答えを引き出すような質問の仕方をするんです。
伊藤 気になることを聞くということは意識しています。悩み事だったら、話を聞いたうえで自分なりの仮説を立てる。そこから、その悩みに対して解決策となるようなことを提示するのか、一緒に話し合うのか等、個人や内容に合わせてアプローチを変えています。
川口 技術指導で大切にしているのは、“確かなスキル”を教えることです。実際に試合で活かせる考え方や目線の配り方、体の向き等、我々の独自メソッドを伝えるようにしています。
例えば、あるプレーをした時は肩を開いておくと左に逃げやすいとか、手を添えておくと次の準備がしやすいとか。それらは自分たちが経験し、結果を得てきたからこそ教えられることだと思っています。
また、初めてバスケットをする子たちに向けて、ステップを踏んで上達できるようなフローも用意しています。
バスケットをしたくてもできなかった中学時代が原体験
ー子どもたちに対する思いもお聞かせください。
伊藤 僕には原体験があるんです。中学校の時、周囲の熱量や指導方針と合わなくて、バスケットボールを思い切りやることができませんでした。当時のチームではそこそこ上手だったのですが、それでも自分の居場所を作れなかったんです。
そこから社会人になる過程で、そもそもスポーツをしたくてもできない子、触れる機会がない子たちがたくさんいる現状を知り、自分の原体験も重なって子どもの機会格差の課題への思いが固まりました。そして、その気持ちを受け止めてくれたのが川口先生です。
川口 教師を志したのは、私も良太同様、ずっとバスケットに携わりたいと思ったからです。なので教員のスタートはバスケットありきでしたが、「自分たちの発した声や行動で、新しい世界は切り開くことができる」ということを、子どもたちに体験してほしい思いもめちゃくちゃ持っています。
もしかしたら、世の中も変えることができるかもしれない。子どもたちには、そういった可能性を自分の姿や行動を通して信じてほしいのです。なので、バスケ部に限らず、学校の生徒会や有志団体にも関わっています。
何か新しいことをやる時に、生徒たちの背中を押すというか、「川口先生なら“いいね”と言ってもらえる」「話をすると元気をくれる」そんな存在になれたらいいなと思っています。
運動部活動の地域移行で、絶対に変えてはいけないこと
ー最後に、運動部活動の地域移行が各地で少しずつ進んでいるようです。お二人は、どのような考えをお持ちですか。
伊藤 うちのスクールも受け皿のひとつになれたらいいと思っています。ですが、単に移行して先生方の負担が減れば済む、という話ではないですよね。
川口 そうだね。部活動は教育の一環として人間形成の場であり、人生を豊かにするためのツールのひとつである。この根底となる部分は絶対に変えてはいけないと思います。ですから、どういう移行の仕方になるにしても、子どもたちのなりたいものへの育みが体現されないと意味をなさないのではないかと思います。
伊藤 同感です。ただ勝利や大会出場を目指すのではなく、子どもたちが主役であることを忘れてほしくはないですね。
個人的には、全てが移行するのは腑に落ちない部分もあるので、生徒も先生も選択できればいいのではと思います。生徒は部活か、それ以外のクラブチーム等、先生は自ら顧問をやるか外部に任せるかを選べるような仕組みです。また、先生も兼業ができますよね。私は川口先生をリスペクトしているので、東洋英和に限らず、他校でも指導してほしいです。
川口 教師の立場で言えば、部活に人生を捧げるほど熱意を持って指導されている先生もいますからね。それは強豪校の先生に限らずですし、自分は未経験だけれど大好きな競技を指導したいという先生もいます。
確かに外部に全てを任せてしまうのは、そういった先生たちにとっては残念なことだと思います。
伊藤 一方で私の周りは、セカンドキャリアや複業で指導をしたいという現役、引退選手がけっこう多いです。自分も外部コーチを経験して思うことは、マインドのベクトルは第一に子どもたちの成長であること。その上で、自分も成長していく姿勢が重要だと感じます。今後、元プロ選手がコーチの道へ進むことは増えていくと思います。ただ部活動もクラブチームも子どもが主役であること。これを忘れてはいけません。
川口 今は、各自治体が試行錯誤している過渡期だと思います。子どもたち主体のまま、いい方向に進んでほしいですね。
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