「勝てるチームはあの能力が高い」駒澤大学・新倉監督のアメフト攻略と新たな誓い
駒澤大学アメリカンフットボール部
監督:
新倉晴彦(にいくら・はるひこ)さん
同大学同部出身。大学卒業後は社会人チームでプレー。ポジションはラインバッカー。引退後、駒澤大学アメリカンフットボール部のコーチを務め、同部創立30周年の節目となる2004年に監督就任。オフェンスコーディネーター、OLコーチも兼任。
ひと目でわかる! チームの特色
- 上級生が下級生にコーチの指導を伝える学生主体
- 脳の活性化に着目した練習法を採用
- 将来に役立つ仕事術、一生の仲間を得られる
天王山とも言える秋季リーグ戦がついに始まった大学アメフト界。TOP8昇格を目指す駒澤大学アメリカンフットボール部BLUE TIDEは、監督・新倉晴彦さん独自の着眼点を生かした練習を行っています。それは、新倉さんが普段の生活で実践し、手応えを感じたことから取り入れたのだとか。その内容とは一体何なのか。チームの強みや特徴、得られること等も合わせて新倉さんに取材しました。
根性練は不要。でも、根性のない選手に結果は出ない
ーまずは、部の特徴から教えてください。
今年度で言うと、プレー面はオフェンスラインが強く、ランニングバックにもいい選手がいるので、その部分に自信を持っています。ですが、当然ながら他校はそこを突いてくるので、パスを巧みに織り交ぜながら対応していこうと思います。
目指すフットボールを掲げて、それに応じた選手をリクルーティングできるわけではありません。その年のメンバーに合わせて最適な戦術を考えています。
ただし、どの年にも共通して部員に意識させているのは、“根性を持って一生懸命練習してこそ、結果を掴みとることができる”ということ。令和の今、根性練なんてものは存在しませんし、そもそもフットボールは最新テクノロジーをどんどん投入して進化していくスポーツなので、そういった精神論とは無縁です。
とはいえ、根性は必須だと思うんですね。なのでみんなには「根性練は必要ないけれど、根性のないやつは勝てない」と伝えています。
部員の人となりは総じて真面目で、今年は特に優しいメンバーが多いです。これは、学生主体の活動が影響していると思います。フットボールはポジション別に指導者がつくものですが、他に仕事を持っているコーチがほとんど。私は毎日指導していますが、基本的に彼らには週末だけ来てもらっています。
そのような背景もあり、コーチの指導を先輩が後輩に「伝える」文化が根付いています。結果、面倒見のいい上級生が多いのだと思います。「もう少し厳しくしたら?」と言いたくなるほど上下関係がないです(笑)。みんな楽しく活動できていると思いますが、オンとオフのメリハリはきちんとつけてほしいですね。
ーアメフトといえば、大学から始められるスポーツの代表格です。実際に未経験者の割合はどのくらいでしょうか。
大半が未経験者で、他競技からの転向が多いです。スポーツ推薦枠を学年ごとにいくつか設けていますが、その枠にも他競技経験者が少なくないです。
強いて言えば野球とラグビーをしていた人は、フットボールを始めやすいのかもしれません。野球は攻守の切り替え、ラグビーはコンタクトスポーツというところで共通点があるので。
ですが、各ポジションに特性があることがこの競技ならではの特徴なので、その2つに限らず、サッカーやバレーボール等の他スポーツも経験を活かすことができると思います。
また、フットボールから他競技に行く子は今まで聞いたことがないんですよ。高校までいろいろやってきて、残念ながらその道は諦めたけれど、フットボールで自分の持ち味を活かすことができて落ち着くパターンがほとんどです。居場所を見つけやすいスポーツなのだと思います。
ここ数年で起きた、部員と保護者の意識の変化
ーコーチ時代含め27年もの長い間、こちらの部で指導されています。学生の方々に変化というものは感じられますか。
真面目な子が多い印象は変わらないですが、コロナ禍を境に部員や保護者の方の意識に変化はあったと思います。
部の目標として勝つことが重要ではありますが、それと同じくらい私は常々、「部員が健全に活動できることが大事」と言ってきました。社会へ出るまでの準備期間に好きなことに打ち込み、そこで成長する。それが大学部活動の在り方です。
結果ありきのプロではないからこそ、部員の安全を確保しながら、経験を積んでいければいいと。
ですが、この考え方がなかなか通じませんでした。先述した根性練じゃないですが「何が何でも勝ちたい」と、強く願う部員と保護者が多かったんですね。「この人は何を言っているんだろう」と、私はそんな目で見られていましたが(笑)、ここ数年で風向きが変わり、私の意見に賛同していただけるようになりました。
ー同部ご出身で社会人チームでも活躍された新倉さんですが、そもそもなぜ指導者の道を志されたのでしょうか。
現役引退後もフットボールに携わっていたいと思ったからです。指導者以外の選択肢も当然ながらありますが、私が指導者を志した理由は、どのスポーツよりも試合中に関わることが多いから。
1プレーごとに指示を出したり、サイドエリアに戻った時の調整をしたり。コーチが果たす役割ってとても大きいんですよ。そこが面白く、やりがいを感じました。
また、現役時代は4部リーグにいたので、チームを強くしたいという思いもありました。
上達への近道は、脳を活性化させること
ー指導方針と部員の方々への接し方についてお聞かせください。
先ほども言いましたが、大学部活は社会に出る準備をするための、言ってみればツールの1つです。なので、人間的成長をしてほしいことが前提にあります。ですが、「こういう選手や人間になれ」と具体的には言わないようにしています。それはもう十人十色ですから。
私の役目は最低限のルールを教え、成長できるチャンスや環境を提供することです。あとは、選手が自ら模索し、その先を見つけるべきだと思っています。
コミュニケーションは、かつてあった飲み会や食事がなくなったぶん、取り方が少し難しいですね。
何が正解なのかはわかりませんが、今は兄貴でも親父でもない距離を維持しています(笑)。近くもないし、私に対してビビっている部分は多少あるようですが、かといって威厳があるというほどでもありません。
心がけているのは、褒めるようにすること。また、プレーにおいては脳の活性化を意識したアプローチを取り入れています。これは言葉だけではわかりづらいので、うまくできているプレーヤーに見本として動いてもらいながら説明をしています。
実際に目で見ることで、タイミングやリズム、ステップの踏み方等、具体的な動きが理解しやすいですし、見本となったプレーヤーは意識づけができて、その動きを自分の強みや得意分野として活かすことができています。
まだ手探りではありますが、このやり方が今のところベターかなと思っています。
ー脳の活性化を促すことで、どういったメリットがあるのでしょうか。
断定はできませんが、脳を活性化させることで、私自身いろいろなことができるようになったと実感しています。
30年ほど前から利き手ではない方で箸を使うようにしているんですね。私の場合、右手が利き手なので、左手で箸を持ち食事をしています。
これが右脳の活性化につながるらしく、本の斜め読みや鏡文字を書くことができるようになり、暗算も速くなりました。
フットボールにも良い影響を及ぼしました。ディフェンスのポジションでは、相手や状況をパッと見た瞬間に、次の動きに移ることが人よりも素早くなったことを自負しています。
ただ何度も言いますが、それらが左手で箸を使い続けた効果とははっきり言えません。ですが脳を活性化させることは、何らかの形でプラスに作用するとは思います。
仕事で役立つスキルと、人生で大切なものも得られる
ー今のお話もそうですが、他に学べること、得られることを教えてください。
将来、組織の中で仕事をするうえで役立つことを数多く学べると思います。
まずは、相手を分析し、結果をまとめて発表すること。アメフトは対戦チームをよく分析し、戦略を立てて戦術を決めます。
分析の際も試合を行うときのポジションのように役割分担をして、期日までにそれぞれプランを立ててプレゼンをするんです。まさに、会社員が行うようなことを4年間ひたすら繰り返すのです。
次に、膨大な情報を整理すること。スタッツはオンラインで管理していますが、相手のプレー記録は紙ベースで整理させています。
黄色は何々のパス、赤は別のパス等、色分けをするんです。全体を見ると、どの色が多いかがわかり、そのチームの傾向が見えてくる。フットボールは、いかに簡潔に頭の中を整理できるかが大事なんです。
色付け作業は、正直なところ選手たちは面倒くさいなと思いながらやっているでしょう(笑)。ですが、そういったことが習慣付くと、将来的に困らないと思います。
フットボールは頭が良くないとできないスポーツと言われることもありますが、そんなことはありません。とにかく整理する力が重要なんですね。その能力が高いチームほど強いと言えます。
ー秋季リーグが開幕しました。意気込み、そして大学アメフトの今後についてお聞きしたいです。
昨年は、タッチダウンをあと1つ取っていればリーグ優勝でき、駒大史上初となるTOP8に自動昇格するチャンスもありました。1プレーの大きさを切に感じたので、そこをいかに埋められるかが鍵になると思います。
そのためには、フィジカルとメンタル、両方でもう1段階高いスタンダードを持つこと。本当にいい選手ばかりなので、そこをクリアできたら勝つことができると思います。
フットボールの競技人口は減少傾向にあります。若い層の人口自体が減っていることも一因ですが、インターネット、SNS等の普及で昔よりひとりで遊べるツールが多くなったことも関係していると思います。みんなでつるむことの楽しさ、面白さを何とかして広めたいですね。
多くの競技、例えば野球は走攻守の三拍子が揃わないと大学以上のレベルで競技を続けることができないと言われています。ですが、フットボールは各ポジションの特性が際立っていることから、どれか1拍子でもあれば活躍できるんですよ。
そして、大学から始めてもトップステージに立つことができる。そういった大きな魅力をもっとアピールできたら、競技人口が増えるのではないかなと思います。
プレーするだけでなく、観戦も楽しいです。野球のように攻守が切り替わるし、将棋の駒のように各ポジションには特性があるので、どんな作戦で攻めるのか、守るのか、推理しながら観るのも面白いです。実は、日本人に馴染みやすいスポーツなんですよ。
ー最後に、部員の方々と、入部を検討しているみなさんにメッセージもお願いします。
先ほどお話した学べることも大事ですが、生涯付き合える友達ができる、ということがこの部で得られる最大のメリットかもしれません。
部員それぞれが抱く価値観は異なりますが、フットボールで勝ちたいというベクトルはみな同じです。
そんな同志とさまざまな経験を積み、苦楽を分かち合いながら過ごす4年間は、何よりも代え難く尊い時間です。そこで生まれた友情や絆は、きっと最高の宝物になるはずです。
そして、フットボールを始めたからには入部後も大学卒業後も、この競技をやってよかったなと思ってほしいです。そうなるように、私は精一杯サポートします。
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