水戸啓明高等学校サッカー部
コーチ:
金久保順(かなくぼ・じゅん)さん
水戸短期大学付属高校(現水戸啓明高校)を卒業後、流通経済大学を経て、大宮アルディージャに加入。その後、華麗なテクニックと豊富なアイデアを武器とするゲームメイカーとして13年間Jリーグの舞台で活躍を見せた。2022年シーズン終了後、現役を引退。翌年、水戸ホーリーホックジュニアユースのコーチとして指導者の道に進み、2024年に母校・水戸啓明高校サッカー部のコーチに就任。
ひと目でわかる! チームの特色
- 「成長」を一番に考えて指導
- 見ている人がワクワクするサッカー
- 環境面のハンデを反骨心で乗り越える
今年2024年から水戸啓明高校サッカー部のコーチに就任したのは、同校出身で一昨年までJリーグの舞台で活躍を見せていた金久保順さん。
「全国大会出場」を目標に掲げてチーム作りを行う金久保さんが大事にしているのが選手1人1人の成長。水戸啓明高校を選んでくれた子供たちを少しでも成長させたい――。その思いを抱きながら、指導を行っているのです。
この成長がチーム力を高めて、勝利を引き寄せる。金久保さんの母校での挑戦がはじまっています。
成長速度は人それぞれ。決して見切らない
ー今年から水戸啓明高校サッカー部のコーチに就任しました。どういった経緯だったのでしょうか?
一昨年に現役を引退して、水戸ホーリーホックのアカデミーで指導者の道をスタートさせました。そのまま水戸で指導者としての経験を積んでいきたいと思っていたのですが、学校の方から、長年サッカー部の監督を務めてきた巻田(清一)先生が体調を崩されたという話を聞きました。巻田先生は僕の恩師ですし、巻田先生の後を継ぎたいという気持ちも漠然とあったので、引き受けることにしました。
ー昨年から指導者の道を進んでいますが、指導をするうえで大切にしていることは何ですか?
「成長」を一番大切にしています。指導者のスタートでジュニアユース年代を見て、最も感じたのは成長の速度が人それぞれ違うこと。そもそも選手によって、身体の成長が違いますし、1か月で大きく変わる選手がいる。高校3年生になってから急激に伸びる選手もいるんですよ。
この学校を選んでくれた子に少しでも成長してもらいたいと思っているので、成長を1つのキーワードとして、見切らないことを大切にしています。もちろん、勝敗も大事ですけど、個々の成長を一番に考えて指導しています。
ー金久保コーチは現役時代、アイデア豊富なプレーを見せてくれました。自身の経験を伝えることはあるのでしょうか。
直接伝えることはあまりないです。変な言い方ですけど、「プロ」の目線で話すと、理解してもらえないことがある。いい意味で選手たちと同じ目線で、分かりやすいように伝えることを心がけています。
プレーのアイデアに関しても伝えるというより、出してほしいという思いが強いです。僕の指示通りプレーして出たアイデアは僕のアイデアになってしまう。だから、意識的に言わないようにしています。
ー1から10まで伝えるのではなく、選手たちの判断に任せるところも多く残しておくのですね。
戦術的な部分はしっかり伝えますけど、個人のプレーの最終的なアイデアや判断、選択については、選択肢を狭めることはしてあげますけど、「これ」という限定はしないようにしています。
3年生がグンと伸びたのは新たな発見
ー金久保コーチは水戸啓明高校(当時水戸短大付属高校)出身ですが、この学校の伝統的なスタイルはありますか?
当時から茨城県の頂点に立っていたわけではなく、頂点のチームをどう倒すかを考えていました。現在、茨城県は鹿島学園高校と明秀学園日立高校が2強のような形になっていますが、その牙城を崩してどうやって頂点に立つかを常に考えています。
ー茨城県で水戸市の学校が全国大会に行く機会がかなり減っています。水戸市のサッカーの立ち位置も変わってきましたね。水戸市のサッカーの復権も求められていますね。
昔は茨城県では水戸が強かった。でも、今は鹿島市や日立市が強くなっている。だからこそ、僕たちが県のチャンピオンになって、「茨城と言えば、啓明だよね」と言われるようになることが一つの目標です。とはいえ、結果にこだわりすぎて、選手の成長を阻むことはなくしたいという思いもあります。そのバランスの難しさをすごく感じています。でも、県のチャンピオンになることが一番の目標です。
ーどういうスタイルのサッカーを目指していますか?
僕が好きな攻撃的なサッカーを目指しています。引いて守って、判断のないようなプレーに対しては怒っちゃいますね。あとは積極的にボールを受けろと言っています。「チキンハートはいらない」と常に伝えています。
元々、好きで、楽しくてはじめたサッカーなんだから、ビビッてプレーする必要なんてない。それを常に伝えるようにしています。自分たちがボールを持って、アクションを起こす、見ている人がワクワクするようなサッカーをしてほしいという気持ちがあります。
ー就任して数か月、変化は感じていますか?
特に3年生が伸びているんですよ。すごく吸収が早い。1~2年生が伸びるかなと思っていたんですけど、3年生がグンと伸びた。そこは僕自身にとって、新たな発見でもありました。すごく楽しいですね。
ー近年はあまり全国大会に出場はできていませんが、石川大地選手(ロアッソ熊本)や佐藤響選手(京都サンガF.C.)などOBがJリーグで活躍しています。チームとしての結果だけでなく、プロで活躍する選手を輩出していくことも目標としているのでしょうか?
大学やプロで活躍する選手を育てることも一つの目標です。巻田先生もそうですし、僕もプロでやっていたので、そこは他の指導者よりもプラスの部分だと思っています。その経験を伝えながら、トップリーグで活躍できる選手を育成していきたいと思っています。
全国高校サッカー選手権大会出場が目標
ーこの夏に取り組んでいることは何でしょうか。
選手権予選に向けての強化期間ですね。夏は半月ぐらい合宿を行いました。石川県のフェスティバルに参加して、その後、長野県で走り込みをしたんです。厳しいトレーニングをチームとして乗り切る経験が大きいんですよ。苦しい時に思い出せるような練習をしてきました。
ー今後の目標を教えてください。
もちろん、茨城県大会で優勝して、全国高校サッカー選手権大会に出場することが目標です。そのためにも鹿島学園高等学校や、明秀学園日立高等学校といった全国大会の常連校に勝たないといけない。ウチのチームは反骨心が強いので、そこは期待しています。
ー「こういう選手に来てもらいたい」という考えはありますか?
言い方が悪いかもしれませんが、挫折を知っている選手。「見返してやろう」という気持ちを持った選手に来てもらいたいんですよ。茨城県にはプレミアリーグやプリンスリーグに所属しているチームがあります。だから、中学時代に注目されているような選手はそういったチームに進むことが多い。
でも、どこのチーム出身だろうと、過去は関係ないんです。水戸啓明高校サッカー部の一員として3年間プレーしてもらうので、これまでの経験は関係ありません。むしろ、実績もすべて捨てて、「ここで成長するんだ」という強い向上心を持った選手に来てもらいたいと思っています。
ー茨城県出身の選手が多いのでしょうか?
そうですね。でも、選手寮もあるので、県外からも選手が来ています。県内の選手と県外の選手は半々ぐらいですね。
ー卒業生の主な進路を教えてください。
大学が多いですね。就職する子もいますし、専門学校に進む子もいます。卒業後に本格的にサッカーを続ける子はごくわずかです。僕はその人数を増やしていきたいんです。高校で燃え尽きるのもいいんですけど、高校で学んだことをもう一段階上のレベルで試してもらいたい。そういう気持ちになってくれたら嬉しいですね。そこはこのサッカー部の課題だと感じています。
ー水戸啓明高校サッカー部で学べることは何だと思いますか?
土のグラウンドでの練習が多いですし、環境面での課題は多いです。でも、少しずつ改善することができています。だからこそ、ハングリー精神が身につくと思っています。僕自身、土のグラウンドで練習してプロになりましたから。
イレギュラーなバウンドでもコントロールできるようになるし、怪我にも強くなる。そういうメリットもあるんです。環境のせいにしないようなメンタリティの強い選手に育つと思っています。
一昨年から指導者として新たなキャリアをスタートさせていますが、今回インタビューをしてみて、その根幹にある思いが変わっていないように感じました。
「サッカーは楽しむもの」
自分で考え、判断しながら、アイデアを出していく。それがサッカーの面白さだという考えで行われているチーム作り。金久保コーチのもと、水戸啓明高校サッカー部がどのような進化を遂げていくのか。楽しみで仕方ありません。
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