茨城ロボッツU15男子
ヘッドコーチ:
遥天翼(よう・てんよく)さん
1988年生まれ、福岡県福岡市出身。東海大学を卒業後、三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ(現・名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)に入団。その後、4チームを経て、2020年に茨城ロボッツに入団し、チームのB1リーグ昇格に貢献。2022年に現役を引退し、茨城ロボッツU15男子ヘッドコーチに就任。
ひと目でわかる! チームの特色
- 信頼関係を大切に。月に一度に面談を実施
- チームコンセプトは“ポジションレス”
- 結果よりも過程を大切にする
2022年に茨城ロボッツU15男子ヘッドコーチに就任した遥天翼さん。10年以上トップリーグでプレーした経験を活かした指導を行っています。中学生という心も体も大きく変化する選手たちに対して、どのようなことを心がけているのでしょうか。指導理念やチームコンセプトなどについて、お話を伺いました。
その子の目線に合わせて接する
―2021-22シーズン終了後に現役を引退されました。長く現役をされてきて引退を決断した理由について教えてください。
当時は34歳だったんですけど、その前あたりから現実的に引退後のことも考えるようになっていました。 やっぱり、バスケットボールに携わる仕事がしたいという思いが強く、おぼろげながら自分の中で子供たちにバスケットボールを教えたいという思いがあったんです。
そこで今後のことも含めて、クラブ側と面談させていただき、「セカンドキャリアは指導者の道に進んでみたい」という意志を伝えました。そして、翌月にクラブから「アカデミーのコーチになってみないか?」という連絡が来たんです。
正直なところ、まだ引退するつもりはありませんでした。ただ、今後自分のやりたいことがすぐにできるのならば、決断して次の道に進んだ方が賢い選択になるかなと思い、現役引退を決めました。
―指導したい思いが強かったんですね。
そうですね、自分で言うのもあれなんですけど、僕自身は繊細な性格をしていて、ボールをもらった時に「シュートを打った方がいいのか」「パスした方がいいのか」と悩んでばかりだったんです。そんな自分が嫌でしたし、子供たちにはそうなってほしくない。試合中、選手は緊張もするし、不安にもなります。そこでベンチから『打っていいんだよ』と背中を押してあげる存在になりたいと思ったのです。
―現役引退後、茨城ロボッツU15男子のヘッドコーチに就任しました。指導者になってみての感想を教えてください。
主に2つ、自分の中で大きく感じるものがありました。1つ目はプレーを言語化することの難しさを痛感しました。そして、もう一つは僕自身ずっと根性論で育ってきた世代だっただけに、今の若い子たちに対してすごく歯がゆい思いを持つことがあるなと。
学生時代、全国のトップレベルでプレーしてきて、競争の中でいろんなものを勝ち取ってきた自負があります。今の子供たちを見ると、「Bリーガーになりたい」とは言うのですが、そのための努力が足りないように感じますし、本気度があまり伝わってこない。僕のスタンスだと、うまくなるために誰よりも早く体育館に来て、誰よりも早く自主トレすることなんて当たり前でした。
でも、中学生はまだ自分でそういうモチベーションを持つことが難しいみたいですね。だから、無理やり引き上げるのではなく、その子の目線に合わせて接しながら求めていかないとうまくいかないなと気づかされました。最初はそこの難しさを感じました。
スポンジのように吸収していく時期
―子供たちとの接し方で意識していることはありますか?
やはり指導する時に大切なのは信頼関係だと思っています。月に1回、すべての選手と1on1で話し合う時間を設けるようにしています。そこで選手1人1人の考えを聞いて、その考えに寄り添うように接することを意識しています。だから、選手によってアプローチの仕方を変えています。
―子供が成長する姿を見ると、喜びを感じますよね。
もちろんです。子供は純粋なので、教えたらできちゃうんですよ。大人になると、プレーにクセがついてしまうので、教えられてもすぐにできないこともあるんです。
でも、中学生ぐらいまではスポンジのように吸収していく。だから、あまりこちらで決めつけることなく、いろんなことをやらせるようにしています。
―中学生は身体的にも大きく変わる時期ですからね。
だからこそ、しっかり年齢によってカテゴリーを分けなきゃいけない時期だと思っています。中学1年生と中学3年生は体格が違うし、身体の線も違うんですよね。この3年間で大きく成長するので、1年生の時と3年生の時では顔つきも変わります。その変化を見られるのが楽しみです。
―心の変化も大きな時期です。
今まで全然声を出せなかった選手が、ある時から急にチームを引っ張るようになることもあります。ちょっとしたきっかけで大きく変わる時期。本当に短期間での成長が見られる年代だと思っています。
応援されるチームになる
―茨城ロボッツU15男子のチームコンセプトを教えてください。
具体的に言うと、ポジションレスです。身長が大きいからといってずっとインサイドでポストプレーばかりさせるということはありません。
彼らにもピックアンドロールを使ってもらいたいし、ドライブもできるようになってもらいたい。あとは、うちはディフェンスチームである、ということを掲げています。オフェンスは波があるけど、ディフェンスは気持ち次第で崩れないので、ディフェンスからチームを作ることを大切にしています。
―チームとして掲げているミッションはありますか?
茨城ロボッツU15男子のミッションは 2つあります。1つは2つの山を登ること。どういうことかというと、バスケットボールの技術的な面の山を登って上手になっていくことが1つ。そして、もう一つの山はバスケットボールを通じて、心も一緒に成長していくことです。
ミッションのもう1つは、応援されるチームになること。そのために礼儀や挨拶、態度という部分をしっかりする。この2つをミッションとしています。
―現在、在籍選手は何人でしょうか?
25人です。先ほど話しましたが、各カテゴリーで習うべきものが違ってくるんですよね。1年生を3年生の練習に入れてしまうと、3年生は物足りないし、1年生は強度が高すぎるという部分で、どっちも不完全燃焼で終わっちゃうんです。
ですから、2チームを作りたくて、今年は1年生を例年より多めの13人にしました。今年は2、3年生合わせて12人、 1年生を13人にして、コートも別にしてトレーニングしています。
―毎年セレクションで選手を決めていますが、言える範囲で選考基準や求める選手像を教えてください。
プレーに関しては、まずシュートフォームを見ています。バスケットはシュートを決めるスポーツなので、正しいフォームでシュートを投げられるかどうかでスタート地点が変わります。
あとは攻守における1対1も重視しています。それ以外には声を出しているかどうか、リーダーシップを取れているかどうか。加えて、礼儀や聞く姿勢、態度も大切にしています。
また、トライアウトの中であえて選手だけで話し合う時間を設けるようにしていて、そこで誰がどういうことを話しているかについてもチェックしています。
3月まで引退はない
―1週間のスケジュールを教えていただけますか?
火木金土の4日間で活動しています。日曜日に試合が入ってくることもあります。月曜日と水曜日は休みです。
平日のトレーニングの時は18時から21時まで体育館を借りていて、18時から19時までリングの設置と準備。あとは選手にはアクティベーションという、自重トレーニングを活用したケガ予防となる体への刺激を行ってもらっています。これはトップチームの選手もしていることです。
アクティベーションが終わったらスキルコーチの指導のもと、グループ別に日替わりでスキルワークを行います。その後、19時からチーム練習が始まって、20時半に全体練習は終了。残り時間で個別トレーニングを行った後、リングを片付けて、21時に体育館を出ます。火曜と土曜にはウエイトトレーニングをしています。
―中学年代のクラブチームはどういった公式戦や大会に出場しているのでしょうか?
クラブチームは全国中学校体育大会には出られません。我々が参加できる中で一番大きな大会はジュニアウインターカップ。部活動、クラブチーム、Bリーグアカデミーチームが参加する中学年代の日本一を決める大会です。
ジュニアウインターカップは県大会で1位になったチームが出場できます。県大会で2位になると、全国U-15バスケットボール選手権に出場することとなります。さらに、Bリーグアカデミーは3月末に開催されるB.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIPに出場できます。
―部活動の場合は引退がありますが、Bリーグユースにも引退はあるのでしょうか?
Bリーグユースの場合、チャンピオンシップがあるので、3月まで引退はないんです。そこは部活動との大きな違いですね。
―卒業後の進路はU18に進む選手が多いのでしょうか?
昨年度の3年生は1人がU18に入りました。それ以外の選手は高校のバスケ部に入部しました。
この年代の指導の答えはすぐに出ない
―茨城ロボッツU15男子の目標は何でしょうか。
毎回大会前に目標設定をしているのですが、今年は4月の段階で、シーズンを通した目標設定をしました。そこで選手たちが決めた目標は3つあります。
1つは“どんな時も挑戦し続けるチーム”。2つ目は“応援されるチーム”。3つ目が“1つになる”。この3つの柱を目標にしてチームは進んでいます。
―結果を目標にせず、あくまで自分たちがどういうチームになるかを大切にしているということですね。
結果を目標にするのがあまり好きじゃなくて。それを達成できなかったら失敗かというと、僕はそうは思わないんです。この年代がピークではありませんから、大会を通じてチームとしてどうあるべきかを大切にしたいですし、その結果、優勝できたらいいよねという考えです。
―最後に、指導者としての遥さんの目標も教えてください。
この年代の指導の答えはすぐには出ないんですよね。大事なのは高校、大学、社会人になった時に成果を出すこと。後から振り返って、影響を与えてくれたと思ってもらえる存在になりたいなとは思いますね。
今回のインタビューで印象に残ったのは「この年代がピークではない」という言葉でした。あくまで成長段階であり、結果よりも過程を大切にしたいという思いが強く伝わってきました。また、3年生になっても3月末まで大会があり、引退がないこともBリーグアカデミーならではの魅力と言えるでしょう。
これからも若い才能を育み、さらに茨城のバスケットボールを盛り上げてもらいたいと思います。
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