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「空を飛んだ先に見える絶景は…」ハンググライダーの第一人者・鈴木由路が体感した世界

東京農工大学ハンググライダー部Flying Chicken

指導:

鈴木由路(すずき・ゆうじ)さん

同大学同部出身。高校まではバスケ、大学から同競技に転向。2019年の世界選手権で12位入賞。コロナ禍により3年ぶりに開催された2023年同大会では42位に終わったが日本人で1位を獲得。2020年の世界ランキングは12位で当時の日本人歴代最高位。選手を続けながらスクール「晴飛」を運営し、インストラクターとして同部を指導中。

ひと目でわかる! チームの特色

  • 壮大な非日常体験ができる
  • かけがえのない仲間ができる
  • 多くの人との出会いがあり、社会性が身に付く

運命的! ハンググライダーとの出会い

世界選手権や世界大会に出場し、「日本人で1位」という好記録を連発しているハンググライダー選手の鈴木由路さん。幼い頃、毎日のように空を飛ぶ夢を見ていた鈴木さんは、高校時代のある出来事から「必ず飛ぶ!」と強い思いを抱き、見事叶えました。実現できた最初の場が、東京農工大学ハンググライダー部「Flying Chicken」です。

現在は選手活動と並行してスクールを運営し、Flying Chickenの部員にも指導を行っている鈴木さんに、在籍当時と今の部についてを、ハンググライダーや空を飛ぶことの魅力とともにお話しいただきました。

ー改めて、Flying Chickenへの入部動機から教えてください。

そもそも、ハンググライダーはまだマイナー競技です。入部者は大学の新歓で存在を知り、興味が湧いて入るというケースがほとんどです。でも、僕の場合はちょっと違いました。

きっかけは高校時代、土手でランニングしていた時にたまたま見たパラグライダーでした。「僕もやりたい!」と思い、その後ネットで調べた際に出てきたのが、パラグライダーではなくハンググライダーだったんです。土手で見たものとは少し違うけれど、僕なりに「こっちの方が圧倒的にカッコいい!」と思い、やると決めました。

そこから進路を決めるにあたって、ハンググライダーのサークルがある大学を探しました。家から近く、かつ親の希望は公立だったことから該当したのが東京農工大学でした。

ハンググライダーという具体的な飛ぶ手段を見つけることができたのは高校生の時でしたが、小学生の頃から「将来は空を飛ぶ」と思い込んでいました。毎日のように飛んでいる夢を見ていて、今日も飛びたいと思いながら布団に入ると、ちゃんとその夢が出てきたんです。

ある意味特技というか(笑)、そう考えると、ハンググライダーとの出会いは運命的とも言えますね。また、ジブリ映画も好きで「ラピュタ」の影響も大きいです。

ー念願のFlying Chickenはどんなチームでしたか。当時と現在の特徴を教えてください。

在籍時代も今も、のほほんとした穏やかな雰囲気のサークルです。上下関係も緩くて、みんな趣味やレジャーという感覚で参加していると思います。

また、東京大学ハンググライダーサークル「falsada」と共に活動しています。こちらはそれぞれ意志がある個性の強い雰囲気がありますが、大学の垣根を越えて、もはや一つのサークルとして仲良く練習していますね。

ですから、僕はすごく居心地がよかったです。ハンググライダーをすることももちろんですが、週に何回も部室でみんなと語らうことも楽しみの一つでした。

ー練習はいつ、どのように行っていますか。

基本、週末に活動を行っています。練習場所は、茨城県の筑波山の近くにある石岡市にあります。金曜の夜にサークルの所有している車で出発し、フライトエリアにあるスクール兼ショップに宿泊して、土日に飛行します。土曜の夜は、みんなでご飯を作って食べます。

毎週末行っていますが、参加は必須ではなく、希望制です。部員数は今15名くらい、falsadaと合わせると約40名いるなかで、毎回約10名前後が参加しています。

ー気になるのが費用です。

週末の活動費は片道一人500円を徴収するほか、車での入山代で300円、あとかかるのは晩御飯代くらいです。それとは別に年会費(20,000円)があります。

また、1年目にハンググライダーの機材を揃えるための費用がかかります。中古で十分ですが、それでも20〜30万円します。ですので、部員のほとんどは晩御飯を自炊する等の節約をしながら、アルバイトをしてその費用をやりくりしています。
ただ、機材は長持ちするので、出費がかさむのは最初だけです。

色鮮やかな原色の世界を今も忘れられません

ーでは、ハンググライダーの魅力を教えてください。

空の上から360度、景色を見られるというのが最高に気持ちいいです。飛行機からでも望めると言われればそうですが、窓越しではなく直に風を受けて、自分の行きたいところに行ける点が大きな違いです。まさに“鳥”になれるんです。そこがなんと言っても一番の魅力です。

ー空を飛ぶことで、人生観や価値観などに変化はありましたか。

1,000m、2,000m上空から下を見ると、車は米粒で人はほぼ見えないんです。すっごく小さいんですよ。だから、些細なことで悩む必要はないな、という考え方にはなりますね。

人間がちっぽけな存在に見えるぶん、地球の偉大さ、壮大さを感じられます。強い上昇気流に入ると、高層ビルのエレベーターより速いスピードで上がるんですね。自然が持つエネルギーってすごい! と思います。また、海沿いを飛ぶと水平線が湾曲しているのがはっきり見えるので、教科書で学んだ地球は丸いという知識を目で見て実感できます。地球そのものを体感できるスポーツですね。


写真提供:鈴木由路さん

 

あとは現実的な話になりますが、ハンググライダーは十分安全なものではあるけれど、危険も伴います。ちょっと気が緩むと痛い目を見ることもあるので、リスクテイクするスポーツと言えます。

飛行しながら風を読むのですが、自然相手ですから実際その通りになるとは限りません。ですから、この先起こることを何パターンも想像して、どれになっても対応できるよう考えなければなりません。そこから、リスクマネジメントのようなものを身につけられると思います。

ー地球を体感できた、具体的なエピソードもお聞きしたいです。

オーストラリアの真ん中あたりで大会があり、2,000m上がっても視界は全部砂漠だったことが印象に残っています。自分が今どこにいるのか、把握できないくらい同じ景色が広がっていました。日本だと10km移動すれば景色は変わるのですが、そこでは全く変化がない。一体どこまで広がっているのだろうと、地球の大きさを感じましたね。

自然の持つ美しさを堪能できたのは、スイスのアルプスです。木々の黄緑、湖の水色、山頂に積もった雪の白…全てが色鮮やかなんですよ。これほどまでにきれいな原色の世界は初めてで、一生忘れられない絶景でした。

本当に素晴らしい景色だったので、今年の夏にスイスツアーを企画しています。一人前のライセンスを持っているメンバーを連れて行く予定です。

ーこのような体験は、日本ではなかなかできないのでしょうか。

いえ、日本でも壮大な体験をすることはできます。ハンググライダーは基本的に有視界飛行が原則で、雲の中には入ってはいけません。方向感覚がわからなくなる恐れがあるためです。

一方で、上昇気流は積雲の下にあるのですが、稀に雲の横まで続いているものもあります。そこを旋回しながら上がっていくと雲の壁が目前に迫るんですよ。これは飛んだ人にしかわからないと思いますが、その雲の壁がものすごく幻想的です。飛行機から見るそれとは全く異なる世界で、まさに壮観という言葉がぴったり合うさまですよ。

飛行に必要な能力と、入部して得られること

ーぜひ体感してみたいですが、飛行にはライセンスが必要ですよね。Flying Chickenでは、資格取得はできますか。

資格は僕のスクールで取ることができます。ライセンスにはA級とB級があり、山の上から飛べるのがB級になります。A級は斜面から飛ぶことができる資格です。


写真提供:鈴木由路さん

 

1年生の夏に、2、3週間くらい合宿をしてB級を取得します。取れたら、9月、10月くらいに初飛行となります。

夏合宿では、まず平らな地面でグライダーを担いで走り、グライダーに風を入れる練習をします。できるようになったら、スキー場の麓のような、平面となだらかな斜面があるところに練習場所を移し、同じことを練習します。

そこでバランスが取れるようになれば、徐々に斜面を上げていき、ようやく足が浮くようになります。その後、離着陸の仕方を何回も行って、それらができるようになればB級取得となります。

ーハンググライダーに必要な能力はどういったものがありますか?

身体能力や体力はあったほうがライセンス取得は早いかもしれませんが、空中に出たらフィジカルはそんなに重要ではないです。それよりも、風の動きを想像した上で行動に移し、それをフィードバックして次に活かすことができる人が上手くなりますね。

ですから、ハンググライダーには、想像力や判断力が重要になってきます。ただ、「飛びたい!」という情熱が一番大事だと思っています。

ー飛んでみたいけれど、高い所が苦手という人は難しいですか?

そんなことはありません。競技者のうち高所恐怖症の人は3割くらいいます。都内の高層ビルから真下を覗き込むのは怖いですが、山頂からの眺めには恐怖を感じませんよね。ハンググライダーもそれと似たようなものです。

ジェットコースターが苦手な人も、急降下したりG(重力)が掛かったりということはないので、問題なく飛行できます。情熱があれば、誰でも飛ぶことができるのです。


写真提供:鈴木由路さん

ー誰でも挑戦しやすいというのは少し意外でした。

初期投資とライセンス取得さえクリアすれば、敷居は低いと思っていただきたいです。
僕はハンググライダーの普及活動にも力を入れています。日本の競技人口はまだ800人くらいと少ないのですが、将来的にはメジャースポーツにすることを目標にしています。

そのために、多くの人を魅了させる大会を開催したいと考えています。きちんとした観客席を作り、屋台や物販、子供向けの遊び場等を設けて、イベントのような娯楽性のある催しにしたいですね。

ハンググライダーをより身近に感じてもらうために、全国のイベント等に出張してVR体験も行っています。そこから、ハンググライダーに興味を持っていただけたら嬉しいですね。そして小さなお子さんは、いずれFlying Chickenへ入ってくれたらと思います(笑)。

ー最後に、技術とは別にFlying Chickenで得られるものを教えてください。

とにかく、普通の人生では味わえない、すごい経験を得られることは保証します。また、メンバーとの結束力が強まります。特殊なスポーツであることに加えて、寝食を共にすることでみんなすごく仲が良くなるんですよね。全国から競技者が集う大会でも、交流の機会が多くあるので知り合いが増えます。長く付き合える、一生の仲間ができるのではないでしょうか。

加えて、僕のスクールには社会人やOBもいるので、幅広く繋がりを持つことができて知見が広がると思います。社会性を学べる場でもありますね。

ー多くの人が一度は憧れる、空を飛ぶこと。その気持ちが熱く強いものであれば、他に必要なのは少しの勇気だけです。それらを持って同部の門を叩けば、この上ない非日常体験と、かけがえのない仲間との出会いが待っています。大学生活はおろか、人生も彩ってくれる濃厚な4年間を送れそうですね。貴重なお話をありがとうございました。



東京農工大学ハンググライダー部Flying Chicken
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