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身体能力だけじゃない「上田綺世のスゴさ」…法政大サッカー部監督が当時感じたこと

練習は朝がメイン。誰もが納得する理由

1922年創部、100年以上もの歴史ある法政大学体育会サッカー部。同大学出身で2017年よりコーチを務め、2022年から監督に就任された井上平(いのうえ・たいら)さんに、チームの特徴のほか、大事にしている指導方針や、上田綺世(うえだ・あやせ)選手をはじめ印象に残っている歴代の選手などを伺いました。

 

―法政大学サッカー部といえば、かねてより少数精鋭を謳われています。改めて、チームの雰囲気や特徴を教えてください。

1学年15人前後、計70余人の少数精鋭は変わらず、加えて上下関係がさほどないことが挙げられると思います。普段は1年生が4年生を名前で呼んだり(笑)、コーチ時代から思うことですが、学年問わずみんな仲が良いなと感じます。ただ、ピッチ上になると話は別です。オンとオフの切り替えがしっかりできていますね。

―本日は朝の練習後にお話を伺っています。練習は朝がメインですか?

そうですね。練習日は、月曜以外の火から金、朝7時から9時までです。火曜のみ午後も練習があり、主に筋トレに当てています。朝早い時間ですがボールを使うだけでなく、走り込みなどハードな練習もガッツリ行っています。

朝練を主体にしたのは、大体15年ほど前からです。大学サッカー界で朝練が増え始めたんですね。その意図は、規則正しい生活リズムを作ることにあります。午後練がメインですと就寝が遅くなり、朝が起きられない。ひいては大学の講義にも支障が出ることから、朝に重きを置くようにしました。

1年生は掃除もあるので、もう少し早く来ないといけません。人間力が磨かれると思います。

とは言え、うちの部の特徴のひとつでもありますが、グラウンドの近くに寮とキャンパスがあるんですね。1、2年生は全員寮に入っていて、グラウンド、校舎すべてを自転車か徒歩で行き来できます。ですから、通学にかかる負担はほぼないんです。

また、グラウンドもいいですよ。僕の時代は土だったので練習着や靴の汚れは相当ひどいものでした。現在は、人工芝のなかでも、最もクオリティがいいものを使用しています。こんなに恵まれた環境にある大学サッカー部はそうそうないと思いますね。

特に大事にしている指導方針

―入部希望者がとても多そうです。どうしたら入れますか?

コロナ禍前は、セレクションも行っていましたが、今はスカウト担当が各地の大会や学校へ視察に赴き、こちらから声をかけてスポーツ推薦で入っていただくことがほとんどです。少人数を保つためにも、今後もこのやり方は変わらないと思います。

―誰もが入れるわけではないんですね。全国トップレベルの選手が集まるなかで、大事にしている指導方針を教えてください。

サッカーを通して人として成長してほしいという思いがあります。今年2023年度卒業の4年生は12人いて、そのうち8名がJリーグに入ります。残り2名がJFLへチャレンジ中で、あとの2名が一般企業に就職する予定です。

プロになる選手がこんなにも多いことはすごいと思いますが、普通に社会に出る選手たちも毎年必ずいます。総じて、社会で長く活躍できるような人間形成と言いますか、サッカー以外のことでも立派に通用するような人になってもらいたいと常に思っています。

そのためには、考える力を養ってほしいんですね。サッカーで言うと、技術面は既に申し分のない選手ばかりなので、自分の強みを深堀りしながら、自分の力でそれを伸ばしていってもらいたい。練習は1日のうち、たった2時間しかないんです。ですから、それ以外の時間で何かをする必要がある。その部分への気づきと時間の使い方が肝だと思っています。

 

 

チームが良い波に乗っている時は、みんな勝手に成長していくものです。大事なのは、自分が試合に出られない時や、チームが難しい状態に陥っている時。これまで多くの選手を見てきたなかで、しんどい時でも諦めず、腐らずにやり続ける選手がどこに行っても伸びるし、信頼を得て長く活躍できている場合が多いなという印象があります。ですので、選手たちには「うまくいかない時にどうするかだよ」ということを常々言っています。

井上監督が目指すサッカースタイル

―チームのサッカースタイルを教えてください。

攻守において主導権を握って戦う攻撃的なサッカーです。
攻撃ではボールを支配し続けて相手のゴールに迫っていくし、奪われても素早い切り替えでボールを奪い返し攻め続ける。守備でも高い位置からアグレッシブに自分達からアクションをおこしてボールを奪いにいく攻撃的なスタイルです。

事前に戦略は立てますが、理想は試合中に改善点や課題を見つけて、自分たちで良い方向へ持っていく流れを作ること。いつでも対応できるよう、それはピッチ外の行動でも意識しています。

ですが、これがなかなか難しい。問題が起きても、見過ごして放置することが多いんです。最近も、寮の自転車置き場が整っていない、と問題提起した4年生がいたんですね。見ると、駐輪場の自転車が乱れて、倒れているものもあるんです。

これは今に限ってではなく、前々からみんながわかっていたことでした。常にきれいにしておいた方がいいに決まっていますが、みんなスルーしていたのです。このことはピッチ上にも通じると思うんですね。問題をそのままにしていたら失点してしまう。小さなことでも、その一つ一つを解決することが大事だと思います。

―選手たちへの接し方については、時代の流れと共に変化はありますか。

僕はこれまで反骨心だけで生きてきましたが、今の子たちは悔しい気持ちから奮起するという気持ちが少ないように感じます。承認されたいという気持ちが強いのでしょうか。まずは良いところを話して、もっと成長してほしい、チャレンジしてほしい部分をセットで伝えるように心掛けています。

先にマイナス点を指摘すると、ネガティブな表情になり、練習に影響が出たりすることもあります。優しいという見方もあるかもしれませんが、指導者側も時代に合わせて変化していかないといけないと考えています。 

このことはサッカー部の部⻑ともよく話しています。ご助言をありがたくいただきつつ、日本一を目指すためには、ある程度の厳しさも必要だとは思っています。

最近は「厳しく指導してくれないと成長できません」と言ってくる子もいます。ですが、それは厳しさを履き違えていて、成長はできませんよね。言われたからやるのではなく、成長とは与えられた仕事を自分で考えながら一生懸命やることで感じられると思うんです。そのあたりをわかってもらえたら嬉しいです。

―選手にとって、井上さんはどんな存在だと思いますか?

コーチの頃から僕を知っている選手たちは、監督になった今も割とフランクに話しかけられると思います。ですが特に今の1年生は、最初から僕を監督だと思って入部しているので、話しづらかったり、本音でぶつかれなかったりする子たちが多分いると思います。

例えば、試合のメンバーを決める時に、ある選手を指名したとします。本当は体調が悪くても僕には本音を言えないし、彼らの多くはプロを目指しているから、試合に出ないと評価されない。だから不調であっても、「大丈夫です」って言うしかないんです。

これをクリアすることは、監督と選手との関係性なので、なかなか難しいと思っているところです。ですが、コミュニケーションをしっかりととっ て、お互いに信頼し合える様な関係性を目指しています。

 

 

同サッカー部出身、上田綺世選手の凄さ

―長い歴史の中で、数々の名選手を輩出されています。直近では、上田綺世選手(フェイエノールト所属)が目覚ましい活躍を見せています。在学時は、どんな印象でしたか。

身体能力がとても高くて、入部当初から大学サッカーに収まらない力量の持ち主だと思っていました。その一方で、最後まで残ってシュート練習をしていたりと努力も惜しまなかったですね。

人間性も素晴らしくて、大学2年の時にコパ・アメリカの日本代表に選ばれたのですが、戻ってきても率先してチームの仕事を行っていました。変わらない謙虚な姿勢に心打たれましたね。彼は大学3年で鹿島アントラーズ入りをしたので、部の在籍は2年ほどですが、大学はきちんと卒業しました。立派で賢い選手だと思います。

―他に印象に残っている選手を教えてください。

ディサロ 燦シルヴァーノ(ディサロ・あきら・シルヴァーノ 湘南ベルマーレ所属)です。常にチームのために走ってくれていたという印象があります。

高い技術を持ちながらも大学時代はそこまで活躍できず、卒業後はプロになれたもののJ1リーグへは行けませんでした。それでも腐らず、所属先のチームのことを思って戦っていたんですね。そこが評価されて点数も取れるようになり、どんどん飛躍していきました。自分のことよりもチームのために、という献身的なタイプの選手こそ成長するのかなと思いますね。

―最後に、どんな選手に入部してもらいたいですか?

「法政大でサッカーをやりたい」という熱量のある子がいいです。ここに来るのは、中学も高校も自分が中心となってサッカーをやってきた子たちばかりなんですね。

ですから、入部した途端に試合に出られなかったりと、最初は多くの子が苦労を味わいます。挫折知らずで来た子たちが、初めて壁にぶつかるわけです。

でも、ここでやりたいから自分は入部したんだという強い思いがあれば、それは乗り越えられると思うんです。加えて、その熱意が私としては単純に嬉しいですね。

―選手としてだけでなく、人としての成長に指導観点を置く井上監督のお言葉全てが印象的でした。入部するのは非常に狭き門ですが、申し分のない環境下でサッカーに集中できる、充実した大学生活を送れそうです。ありがとうございました。


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