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Vリーグ撤退からの再起をかけて。トヨタ自動車女子バレー部監督「生き残るための苦悩と決意」

トヨタ自動車女子バレーボールチーム サンピエナ

監督:

太田有紀(おおた・ゆうき)さん

Vチャレンジリーグ兵庫デルフィーノで選手としてプレー。現役引退後、2015年に女子ナショナルチームのアシスタントコーチを担当したことをきっかけに、2016年にコーチとして前身のトヨタ女子バレーボールチームに加入。指導だけでなく、ジュニアの育成まで幅広く選手と関わる。3年前に監督に就任。

ひと目でわかる! チームの特色

  • Vリーグ参入を目指す女子実業団チーム
  • 興行化を視野に入れたチーム改革
  • 社会人としての立ち振る舞いが身につく

実業団チームを地元に愛されるチームへ。会社の社員だけでなく地域の人にも愛される地元に根差したチームにするべく、運営方針の方向転換を図ったサンピエナ。

その背景には、バレーボールの「スポーツビジネス化」を推進するVリーグの変革があります。今年2024年から将来的なプロリーグ化を目指すSVリーグが新たに誕生。その下につくVリーグの所属チームもさらに興行化を求められることになったのです。

合わせて、実業団チームは形を変えなければいけません。そんな現状を、現場はどう受け止め、動いているのか。トヨタ自動車女子バレーボールチーム サンピエナの監督・太田有紀さんにお話を伺いました。

太田さんが見てきたVリーグとチームの変化とは?

ーまずは、トヨタ自動車の女子バレー部を見ることになった経緯を教えてください。

トヨタ女子バレーのコーチになったのが2017年からなので、チーム指導歴は7年ぐらいです。まだまだ浅いです。きっかけはロンドン五輪の日本代表アシスタントコーチに呼ばれたことから、縁あってトヨタの女子バレーの方からチームスタッフにならないかという話をもらいました。

それを受けて、同チームのコーチになり、最初の一年目は育成担当や外部に出てイベントの講師等もしていました。3年前から監督をやらせていただいています。

ー太田さんがコーチとなった2017年、チームはVリーグを撤退しました。その理由とチームの現状をお聞かせください。

Vリーグを撤退することになった大きな原因は、当時のチームの選手登録人数がVリーグの既定人員を下回ってしまったからでした。

それでも再びVリーグを目指すべく、チームの改革が始まりました。

なかでも大きく変わったところはチーム名です。なぜ変更したのかというと、Vリーグに復帰するには、チーム名の商標登録が必須条件なんです。それに伴い、チーム名を商標登録しようとした時に、グレーな部分が出てきてしまったため、良い機会だということで名前を変えることになりました。
ある種の心機一転みたいなところはありましたね。

こうして改めてVリーグ参入を目指そうとしていましたが、コロナ禍になり…。
僕たちも仕事をしながらですし、チーム内で感染する子もいたりして、スポーツのできる環境がなかなか整わず、動きに遅れが生じてしまいました。

さらにVリーグもどんどん変わっていくので、それに合わせていかなければならず、正直なところ現状のVリーグ再加入は非常に厳しいです。

ー チームの改革を行う中で、下部組織としてアカデミーを設立することも考えていると伺いました。運動部活動の地域移行も意識されてのことでしょうか。

アカデミーを作ることができたらいいですが、それはまだ先の話かなと思います。その一方で僕は、「誰でも気軽にスポーツに触れられる場所を作る」というのが理想にあります。

まずはどのスポーツをやりたいか、子どもたちには選択肢を与えてあげるべきだと思うんですね。いろいろやったなかで、バレーが好きと思ったらそれを極めてほしい。何かの競技を始めるきっかけとなる場所を作れたらいいなと思います。

運動部活動の地域移行については、課題だらけだと感じています。部活動は、親の負担が少なく、学校という場所の中で完結できる、子どもたちが気軽にスポーツに向き合える数少ない場所です。そして、先生という指導要領を分かっている人が指導してくれる貴重な活動でもあります。

これが地域に移行されることで、教える側の指導能力に信頼が置けなくなる可能性が出てくるというのは、すごくネックだと思うんですね。
それに限らず、部活動がなくなることで増える負担は親の送迎やクラブ会費等、目に見えるだけでもいくつもあると思います。

ですので、できることなら指導者ライセンスを持った人を増やし、部活動に外部指導者が入るという仕組みがもっと浸透すればいいなと思います。
実際、チームの中でも何人かの選手は地元の中学の指導に行ったり、ライセンスを取ろうと勉強を始めた選手もいたりします。

そういった意味では、アカデミーという形なら、今あるこのサンピエナを現役選手のセカンドキャリアとして、はたまた子どもたちにはバレーの技術をしっかりと伝えられる場として、うまく活用していけるのではないかとは思います。

選手と監督のコミュニケーションは?

ーチームの特徴や雰囲気を教えてください。

豊田市という地域柄、高卒で地元の大手(トヨタ、デンソー、パナソニック等)に就職するというルートが確立されているため、メンバーの多くが高校卒業と同時に入ってくるんですよ。なので社会人やVリーグの他のチームよりも全体的に若く、明るいチームです。

それでいて、みんな社会人としての立ち振る舞いがしっかりできています。

また、いろいろな人たちの支えがあるからこそ選手活動を続けられているということも意識できていると感じます。
ゆえに、社員さんからも結構愛されているようなんですよ。それってなかなか難しいことだと思います。そんなメンバーが集まったチームです。

他にもやりたいことがたくさんあるでしょうが、バレーボールと仕事を両立しながら真面目に頑張っているところは、この子たちの良いところだと思います。

ーちょっと直してほしいなと思うことはありますか?

試合で想像以上に緊張することですね(笑)。

練習中は和気あいあいと、それなりに元気よくやっていますが、試合になるとものすごく緊張するんです。対戦相手は大概、自分たちより年上だったり、キャリアがあったりする人たちなので余計に。

私は試合において「緊張すればいい」とは思っているんです。緊張の払い方や、立ち向かい方は練習の中で身に付けるものだと思いますし、そういう環境を作って提供することも監督として必要だと考えています。

選手たちも試行錯誤している感じはあるので、緊張の度合いがもう少し減るといいなと思います。

ー最後に、監督として大事にしていること、こんな選手に入ってほしいなという思いはありますか?

彼女たちにとって、この先の人生において支えになる時間であってほしいと思っています。何かのきっかけや偶然の巡り合わせで同じチームにいるので、せっかく時間を使うなら充実したものにしたいです。

基本的に選手は自分の意思でここに入ってきてくれるので、そういった自分から頑張れる子や、言うまでもなくチームスポーツなので協調性のある子に入ってきてほしいですね。

選手と監督の素敵な関係がうかがえるやり取りもあり、選手との時間をとても大事にされているんだと実感したインタビューでした。
変わりゆくVリーグに合わせて、チームをどう前進させるのか、選手たちのことも考えながら話される姿に心を打たれました。難題は多いと思いますが、サンピエナさんがVリーグで再び活躍する姿をぜひ見たいですね。貴重なお話ありがとうございました。


トヨタ自動車サンピエナ(実業団)
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