menu

「選手を諦めた過去があるから今がある」明治大学・櫻井亮監督がアメフトで得た学びと気づき

明治大学体育会アメリカンフットボール部GRIFFINS

監督:

櫻井亮(さくらい・りょう)さん

明治大学付属明治中学校・高等学校、同大学を経て、卒業後も同大学に入職。同時にGRIFFINSのコーチを担当。11年間務めた後、2023年シーズンより監督に就任。

ひと目でわかる! チームの特色

  • 創部90周年、学生主導で日本一を目指す
  • 「伝統のラン」「基本の徹底」に注力
  • 社会で活躍するための人間的成長を育む

日本におけるアメリカンフットボールのルーツ校の1つで、創部90年の歴史を持つ明治大学体育会アメリカンフットボール部GRIFFINS(グリフィンズ)。関東アメフト1部リーグのTOP8に所属し、安定した実力を誇ります。

GRIFFINSのOBでコーチを長年務め、昨年から監督に就任された櫻井亮さんに取材しました。チームの強みと課題、そして忘れられない恩師との思い出などをお話しいただきます。

※取材は2024年8月に行いました。

脳振盪から選手を断念。支える側へ

ー明治大学付属校ご出身でそのまま同大学へ進学、卒業後も同大学で職員をされています。生粋の“中の人”から見た、明治大学とGRIFFINSのカラーや雰囲気を教えてください。

明治大学の校風と言うと、建学の精神として“権利自由”“独立自治”といったやや堅い印象が世間に浸透していましたが、それを継承しつつも、現在は“個を強くする大学”や“前へ”を掲げています。いろいろな個性を尊重しながら伸ばし、時代を変革していく人材育成を目指しています。

GRIFFINSも”個が強い”学生が集まっている体育会の1つです。選手が87人、男性スタッフが4人、女性スタッフが19人いまして、合計110人で活動しています。基本的にみんな真面目で、とても仲が良いですね。
SNSの影響が多分にあると思いますが、情報収集能力に長けている子は本当に多いです。

付属校のある大学のアメフト部は内部進学の経験者が多い印象を持つかもしれませんが、GRIFFINSはそんなことありません。3つある付属校は全てアメフト部がないんですよ。なので、部員のうち内部進学者が占める割合は多いもののフットボール未経験者ばかりです。

スポーツ推薦枠は多少ありますが、一般受験から入部する部員で経験者は毎年ほんの数名です。ですから、フットボールをやりたいが敷居が高そうと思っている人はどうかそのイメージを消してください。大学から始めても活躍できます。私も、未経験でGRIFFINSに入部しました。

ー櫻井さんがフットボールを始められたきっかけは何でしたか。

中学は陸上、高校では野球をやっていましたが、中学時代の先輩や高校の体育教師がフットボール経験者で競技の魅力を教えてくれたのです。そこから、フットボールに興味を持つようになりました。

練習試合を観戦し、さらに意欲が高まりました。選手同士がぶつかり合うさまはカッコよく、何十人もの組織で勝利を目指して戦っていくことは1人の人間として勉強になると思ったんです。大学から始められるスポーツとして他にラクロスも頭に浮かびましたが、フットボールの素晴らしさが勝りました。

いざやってみると覚えることが多く、想像以上に頭を使いました。瞬時の判断力も必要なので、改めて難しい競技であることが身を持ってわかりましたね。でも、同時に面白さも十分に感じていました。

ですが、私は脳振盪を何回か起こしたことから選手を断念せざるを得なくなりました。4年生からは選手ではなく、主務(マネージャー)を担うことになったのです。

当時は切ない気持ちになりましたが、裏方でチームをまとめることにやりがいを見出すことができました。指導者や大学職員の道を選んだのは、その経験があったからこそです。選手を続けていたら、この場に立つことはできなかったかもしれません。

そう考えると、失ったもの以上に得られたことは大きかったと感じます。

理念や価値観を定め、昨年フェアプレー賞を獲得

ー指導方針についてもお聞かせください。

私が監督になって最初に取り組んだことは、チームの軸となる理念を掲げ、組織のGOALとして「ALL GRIFFINSで勝つスポーツ組織へ」を設定しました。ALL GRIFFINSとは、部員やスタッフのみならず父母会、OBOG会、協賛企業、大学関係者といったGRIFFINSに関わる全ての方々を指しています。

そして勝つとは、TOP8優勝及び甲子園ボウル優勝(学生日本一)を意味します。

この理念と4つのフィロソフィーを紙に記し、合宿所の階段の踊り場やトレーニングルームなど目に留まりやすいところに貼っています。

フィロソフィーの1つに"フェアプレーの精神”があるのですが、昨年度はチームでフェアプレー賞をいただくことができました。もちろん目指すは優勝ですが、受賞できたことを大変光栄に思います。

他に掲げているコンプライアンスやモラルは、オンザフィールド・オフザフィールド問わず全てにおいて言えることです。
常に意識してほしいので練習後にも次のように話しています。「当たり前にやるべきこと、やってはいけないことの区別をつける。そして昨日よりも今日、今日よりも明日と少しずつでも前進し成長していこう」と。その成果が1つの形となって表れたことが嬉しいです。

ー他にプレー面で注力されていることは何でしょうか。

GRIFFINSのプレースタイルとして、マルチなオフェンスの時代とはなっていますが、"伝統のラン”を重視しています。

普段から「GRIFFINSのランニングバックはフレッシュを取ったぐらいで喜んではいけない。ボールを持ったら、タッチダウンを取る覚悟で走らなければいけない」と、そのくらいの気概で1プレー1プレーキャリーしてほしいとランニングバックには声をかけています。これは、GRIFFINSを長年支え続けた名将、故・野崎和夫元総監督の言葉でもあります。

また、"基本の徹底”も意識して行っています。スタートやヒット、ドライブ、タックルなど、基本的な動作にフォーカスするよう指導しています。応用が利く選手がいたとしても、やはりピラミッドの底を支える基本がしっかりしていないと崩れやすい。ですので、部員とコーチ共通認識のもと基本を重視しています。

写真提供:明治大学体育会アメリカンフットボール部GRIFFINS


 
課題として挙げたいのは、詰めの甘さです。昨年の秋季リーグ戦や今春のオープン戦で、1本差や逆転されて負けるという苦い経験が続きました。そこはチームの弱点だと思うので是が非でも改善すべき点だと思っています。

“環境が変わってもGRIFFINSのフットボールがしっかりできるかどうか” ここに勝敗がかかってくると思っています。本拠地・八幡山での練習で培ったものを、どの試合会場でも体現することができたら、チームは負けない。でも、それは簡単なようで一番難しいことで、肝となるのは強い精神力なんだと思います。

夏合宿で心身ともに鍛えられたかなと思いますが、それはどのチームさんも同じはず。ではどうするかといえば、毎日の練習及び生活から腰を据えて自分たちの目標を改めて心に刻み、1戦1戦において1プレー1プレースタートからフィニッシュにこだわりやりきること。これに尽きるのかなと思います。

ただ2年連続で3位に位置付けられているのは、学生たちの努力の賜物です。毎年部員が入れ替わる学生スポーツである以上、毎年築き上げていかなくてはならず簡単なことではないですが、さらなる高みを目指します。

写真提供:明治大学体育会アメリカンフットボール部GRIFFINS

故・野崎和夫元総監督が遺してくれたもの

ー部員のみなさんとのコミュニケーションはいかがでしょうか。

一般的に大学体育会の監督は、自分の父親もしくはそれ以上の年齢で、学生は畏れ多くて話しかけられないような雰囲気があると思います。対して私は、1部リーグの中で、おそらく断トツに若いですね。そのこともあり、学生との距離は比較的近い方だと思います。

何かあったらすぐ連絡するよう、部員にはしょっちゅう声をかけているのでLINEにメッセージがよく来ます。相談ごとや急な欠席連絡など、本当に日常的な会話のようなことからやり取りをしています。

また、私は指導が週末だけなので、練習を見る時はなるべく対話することを心掛けています。特にパート練習時に全ポジションを見て回り、積極的に声かけをしています。

ーこうして選手のみなさんを見ていて、伸びる子の特徴というと何か思うところはありますか。

大前提として、やる気がある。そして、考える力と組織を前に進めようとする力。これらを持つ子は伸びやすいと思います。

野崎元総監督も常々「できるできないじゃない、やるかやらないか、やってくんなきゃ困るんだよ!」と仰っておりました。

先輩や指導者からのアドバイスを自分なりに噛み砕き、改めて自分で作ったものを組織に還元する。そこに、その子とチームの成長が表れると思います。

写真提供:明治大学体育会アメリカンフットボール部GRIFFINS


 
ー現役選手時代も含めて印象的なエピソードを教えてください。

野崎元総監督にまつわる思い出が色濃く残っていますね。
伝統のランをお話しした時にお名前を出しましたが、GRIFFINSといえばこの方と言えるくらい私たちの世代までは野崎元総監督の影響が大きいんです。

野崎元総監督がお亡くなりになったのは2021年。コロナ禍だったので、OBOGでお見送りすることは叶いませんでした。ですが、今年2月にようやく偲ぶ会を行うことができたのです。八幡山グラウンドで行ったのですが、大勢のOBOGがお見えになり、改めてすごい方だと存在の大きさを感じずにはいられませんでした。

一方で、歴史の重みと責任を改めて感じました。こんなにも多くの先輩方の支えがあって今のGRIFFINSがある。そして、野崎元総監督という偉大な方が務めた監督のバトンを、私が受け取らせていただいている。これまで以上に監督業に励もうと誓いました。

部員たちにも、自分はGRIFFINSの一員であるという自覚を持って日々行動するよう、口酸っぱく伝えています。

生前の野崎元総監督を振り返ると、めちゃくちゃ怖かったですね(笑)。ただ逆に言えば、フットボールにそれだけ情熱をかけられている方でした。

野崎元総監督は遠方在住だったので、当時主務が逐一練習報告等を電話でする通称:ジジ電というものがあったんです。少し話しただけで、すぐに状況を把握されるんですよ。まるでグラウンドにカメラがついていて、野崎元総監督はずっと見ていたんじゃないかと思うくらい。その点もすごいなと思っていました。

野崎元総監督は、サクリファイス・スピリット(犠牲的精神)を提唱していました。
私もフットボールは、サクリファイス・スピリットの塊だと思うんです。ただ、今の時代にはインパクトのある言葉なので部員たちには直接伝えず(笑)、野崎元総監督の思いを胸の内に秘めながら指導しています。

ーGRIFFINSで学べること、得られることは何でしょうか。

1つの大きな目標に向かって、組織の中で自分の役割を認識し、どのように動けば良いかを学ぶことができると思います。

この年代は、「俺たちが世の中を回してる」みたいな感覚になりやすいと思うんですね。ですが、自分たちにはまだまだ伸びしろがあることをまず自覚してほしい。自分自身の能力や知見を高める、そして、多くの仲間や指導者と共にコミュニケーションを取り、調整・取り纏め、推進するといったチームという組織的な学びを得て、社会で活躍できるような人間的成長をしてもらいたいです。

また、日本一に挑戦する、という経験を得られます。

仕事をしながら、何かで日本一を目指すことはなかなか難しいと思います。学生の本分は勉強ではありますが、課外活動としての体育会で4年間という限られた時間の中、仲間と共に日本一を目指すことができる。大学生の特権と言いますか、大きな魅力だと思いますね。

そして、ぜひ持ってほしいのが感謝の気持ちです。他大学さんではもっと整っているところもありますが、東京・世田谷区に専用グラウンドや合宿所などの環境が整っている。いつでも、練習に励むことができる。身近な家族を始め、様々なステークホルダーの方々が、自分たちを大切に思い支えてくれるからこそ活動ができる。このことは常に忘れないでいてほしいです。

ー最後に、今季の抱負と今後の展望をお願いします。

目標は、甲子園ボウル優勝(学生日本一)です。
GRIFFINSは、1985年以来甲子園ボウルへ出場できておらず、未だ学生日本一は達成したことがありませんが、挑戦して参ります。

これまで全日本大学アメリカンフットボール選手権大会は全国の8連盟から1校ずつが出場し、甲子園ボウルと言われる決勝戦で日本一を決めていました。
ですが、今季からは関東と関西の枠がそれぞれ1から3つに増え、計12校がトーナメントで争うことになりました。
これにより決勝戦が関西同士、または関東同士となる可能性が出てきたのです。

大学アメフトは、実力が西高東低と言われています。今後大学アメフトを盛り上げていくためにも、何が何でも関西同士の決勝戦は阻止したい。そして我々が勝ち上がって、学生の雄であり前回出場した際に戦わせていただいた関西学院大学さんとぜひ甲子園ボウルで戦いたいですね。もっと言えば関東同士の対決となるくらい、関東の他大学さんと切磋琢磨し関東アメフトのレベルを上げるべく精進していきたいです。

野崎元総監督についてのエピソードや部員のみなさんへの思いなど、GRIFFINSに対する櫻井さんの並々ならぬ覚悟と愛情が伝わるインタビューでした。その思いに匹敵するほど素敵だと感じたのは、練習中の部員のみなさんの様子です。大きな掛け声と共に伸び伸びとプレーする姿は陽光も相まってキラキラと輝き、神々しさも感じられました。そんなパワーみなぎるGRIFFINSは、今後さらに大学アメフト界で存在感を強めていくことでしょう。貴重なお話をありがとうございました。


明治大学体育会アメリカンフットボール部GRIFFINS
チームが気になったら…
明治大学体育会アメリカンフットボール部GRIFFINS
チーム詳細をみる▶︎