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「根拠のない自信は誰も信じない」法政大学アメフト部・矢澤正治監督が考える“ブレない強さ”

法政大学体育会アメリカンフットボール部ORANGE

監督/ヘッドコーチ:

矢澤正治(やざわ・まさはる)さん

法政大学第二高等学校からフットボールを始め、法政大学アメフト部に所属。卒業後はXリーグの鹿島ディアーズ(現胎内DEERS)に入団。プレーヤーとして活躍後、コーチに就任。2018年より、法政二高及び法政大のアメフト部コーチへ。2022年より同大同部のコーチに専任。2024年より現職。

ひと目でわかる! チームの特色

  • 自由と進歩のフットボールが理念
  • 日本一を目指し日本一成長できるチームに
  • お互いの成長をサポートし合える

鮮やかな青芝が目に眩しい専用コートで、日々練習を積み重ねている関東の雄、法政大学体育会アメリカンフットボール部ORANGE (以下、法政ORANGE)。関東大学アメフト1部のトップリーグTOP8で長らく頂点に君臨し続け、今年度の秋季リーグでも2年連続21度目の優勝を決めています。

それでも「強いとは思っていない」と話す監督の矢澤正治さんに、あえて強さの理由をお聞きしました。部員への熱い思いやチーム作りのコツ、チームの現状についてもお話しいただきます。

※取材は2024年9月上旬に行いました。

法政ORANGEを支えるのは、3つの柱

ー群雄割拠のTOP8の中でも、やはり強いという印象があります。チーム作りにおいて、どのようなことを心がけていらっしゃいますか。

チーム方針として、3つの柱を掲げています。1つ目は、自由と進歩のフットボールというフィロソフィー。2つ目は、フラットな関係。3つ目は、アメリカのフットボールチームをベンチマークにした取り組みです。

1つ目は、法政大学の建学の精神をフットボールに落とし込んだ理念です。自由と進歩とは、自らの意志でやること。それにより、無制限に成長すること。そこから、社会に役立てる人間になりましょう、という意味合いを込めています。そして、その大学理念を私たちは、フットボールという競技を通じて体現することを、まずひとつ目に掲げています。

では、実現するためには、どうすればいいのか。具体的な手法のあり方が、2つ目のフラットな関係になります。先輩だから試合に出るとか、1年生だから発言しなくていいとか、そういうことではありません。各々の立場で役割を果たす中で意見を言い合い、みんなで力を発揮していこう、と伝えています。

それは逆に、1年生でも選手ではないスタッフでも、意見を言わなければいけない義務があるとも考えられます。そのような経験は社会に出て生きていく上でのエンジンにもなるのです。

このフラットな関係は、安全面から見ても重視しています。本当にしんどい時に「しんどい」と言える環境がとても重要だと思うんです。

例えば真夏の練習時、辛さを言えずに耐えていたら、酷い熱中症や脱水症状になってしまった。それは、絶対に避けなければいけないことなので、安全を担保するためにもフラットな関係は不可欠だと思っています。

ーフラットな関係には、いくつものメリットがあるんですね。3つ目の、アメリカのフットボールチームをベンチマークにした取り組みとは。

チーム作りには、何か基準となるものが必要です。何にも指針がないと、選手たちは「どうすることが正しいのだろうか」と迷いが生じてしまいます。私たちはグローバルスタンダードを物差しとし、アメリカのNCAA(全米大学体育協会)に所属しているフットボールチームを見習おうとしています。

今の学生が今後、生きていくうえで戦う相手は、日本人だけではないですよね。世界の同年代なんですよ。であれば、彼らが何をもとにどんな努力をしているのかを参考にすべきは当然のことだと思います。

わかりやすい話で言えば、アメリカでは大学の部活に所属している学生をスチューデントアスリートと言います。スチューデントが先なんですよ。なので文武両道、もっと言えば、学生がやるべきものはまず勉強だと優先順位がはっきりします。

私はこの3つの柱を部員たちに常々言っています。このプレーは? このミスは? この行動は? 私たちが掲げるフットボールに照らし合わせると、合っているのかどうなのか。その都度問うようにしているんです。「フットボールで頑張れなくて、社会でどうやって頑張るんだ?」というスタンスですね。

改めて言いますが、“自由と進歩” は言い換えると、"人間として成長するということ”に他なりません。練習でも「成長しようぜ」という言葉がよく飛び交います。日本一を目指しながら、日本一成長できるチームを目指しています。

昨年、秋季リーグ優勝をすることはできましたが、私たちは全然強くないと思っています。「一戦一勝」を合言葉に、「one play at a time(目の前のプレーに集中する)」の精神で、毎回必死に相手と向き合っています。

アレが多いか少ないか。強いチームの秘訣

ーすごく謙遜されていますが、単刀直入に強さの秘訣を教えてください。

どのチームもそうだと思いますが、強さの秘訣はこれ! と断定して言えるものはありません。

ひとつ言えるとしたら、負けていたり逆転されたり等の外的環境に影響されず、自分の力を発揮できる選手が強いと思います。つまり、ブレずに自分の意思でプレーできる選手の多いチームが強いと言えるのかなと思います。

ただ、みんな人間ですから感情に左右されます。マインドコントロールのできている人が多いか少ないかの違いとも言えると思います。

先ほどフラットな関係がもたらす経験は、今後社会で生きていく上で、前進するためのエンジンになるとお話ししました。加えて、自分の心をコントロールすることも同様に社会を生き抜くエンジンになると思うのです。

ー確かにそれは理想ですが、その訓練は難しいですよね。

難しいですが、セルフコントロールができるようになるかどうかは、いかに自己肯定感を上げられるかにかかってくると思います。なぜなら自分が不利になったり、ピンチに陥ったりした時でも揺らがない精神は、自己肯定感と深くつながっていると思うからです。

自己肯定感を高めるためにまずは、1つの物事や事象に対して自分の能力がどれほどのものなのか、それを理解することから始めるのが重要だと思います。できるできないの程度には、「確実にできること」「絶対にできないこと」「できなさそうでできること」「できそうでできないこと」などがありますよね。

例えば朝、起きられない。部屋を片付けられない人がいるとします。これは、健康な人であれば「本当はできること」で、割とすぐに理解できます。

一方で、我が子にいろいろ注文をつけて、一向にできないとイライラする親がいる。これは、「子どもにとってはできないことなのに、親はできると思っている」一例です。親は子どものことを理解できていないから、イライラするんです。

こういったことを整理して理解できるようにする。そこから、目標に向けて自分ができること、できそうなこと1つずつに挑戦し、クリアしていけばいいのです。そして、その積み重ねが自己肯定感を高めることにつながり、どんなことがあっても“ブレない自分”に育つのだと思います。

自己肯定感のことを昔は、「根拠のない自信」と表現していたかもしれません。ですが、私は自信に根拠はあると思うし、根拠のない自信は多分誰も信じてくれません(笑)。できた!という根拠を重ねて、自信は生まれるのです。

今じゃなくても、いつか響けばいい

ー改めて、法政ORANGEの部員として過ごす4年間は、ものすごく価値がありますね。

そうだと思ってほしいです。大学4年間は、社会に生きるための学びを大いに吸収できる貴重な時間です。毎日を無駄にできません。ですから、1年生の時から1年生なりに考えてほしい。その時点でもできることがきっとあります。

大きな集団において上下関係を意識すると、1年生は特に入部してまだ日が浅く、帰属意識や存在価値を見出しにくいかもしれません。でも、何かしら必ずチームに作用しているんですよ。それは挨拶や練習に対する意欲、姿勢など、本当に些細なことかもしれません。ですから部の看板を背負う以上、実力があろうとなかろうと自分は法政ORANGEの部員であるという矜持が必要なんです。

と、学生たちにもこう話していますが、なかなか響かないものです。でも、その子なりのペースがあるので、いつか響けばいいんです。何かのタイミングで、「監督はああ言ってたな」と思ってくれれば嬉しいです。

今響かないのは、私の伝え方がよくないのかもしれません(笑)。内発的動機づけと外発的動機づけのバランスの問題だと思うのですが、よく名将と言われる人はそのセンスがすば抜けていいんですよ。私はまだまだなんだと思います。

ーいえ、すごくわかりやすいお話でした。部員の方とのコミュニケーションの取り方について、気をつけていることはありますか?

みんなで集まった時に唐突に、3人くらいのグループごとに分けて、話し合いを持たせることをよくします。テーマは例えば、その日の練習メニューなどです。

目的は、アウトプットの練習です。内容は求めません。アウトプットするという行為自体が重要なんです。そうすることで自分の弱点や課題が見える。そして、それを教訓に次の場に活かせることができる。これもまた、社会に出て役立つ、勝ち抜ける人間になるための成長の一歩です。

秋季リーグの後半戦が、本当の伸びしろ

ーこれまでのお話も踏まえて、改めてこちらの部に入ると学べること、得られることは何でしょうか。

やはり、人としての成長。そして、それを望んでくれる仲間たちとの出会いです。

私たち指導陣も選手もスタッフも、みんながお互いの成長を望んでいるし、私は成長できる環境を作っているつもりです。ですから、入部すれば周囲はものすごくサポートをしてくれます。そしてサポートしてもらった子は、いずれ誰かを助けられる立場になると思います。

法政ORANGEはそんなお互いをリスペクトして、お互いの成長を望むことができる仲間ばかりです。

ー最後に、開幕中の秋季リーグへの思いと、今後の大学アメフトの展望もお願いします。

春のオープン戦は主力メンバーの怪我により、試合経験があまりない選手を起用することができました。これにより、春の結果自体はもしかしたら納得しづらいものだったかもしれません。ですが、チームの幅を広げてみんなが活躍できるチャンスとなり、大きな収穫を得られたと私は理解しています。

その春が過ぎ、夏の準備期間を経て、今、本番の秋を迎えています。以前とは比べ物にならないほど、逞しいチームになったのではないかなと思います。

試合を重ねていくと10月後半ぐらいにまた伸びる時が来るはずです。今の私たちはまだまだだったなと振り返られるくらい、成長できているチームでありたいなと思います。というか、そうじゃないと勝ち上がっていけないと思っています。

ここからが本当の伸びしろです。例えば今は60点で、いつかは80点を、という感覚ではありません。私たちは常に、その時点での100点を目指します。目盛の幅が広がっていく、そんなイメージですね。

大学アメフトの実力は西高東低と言われていて、西の関西学院大学さんが圧倒的な強さを誇っています。ですので、何とか東が強くなって全体を盛り上げなければいけないと思っています。

大学スポーツにはもっと大きな価値があると思うんです。もう少し魅力を発信して認知拡大しマネタイズできるようになれば、さまざまな可能性が見えてくると思いますね。大学の垣根を超えて、力を合わせてできることがたくさんあるはずです。

「自分は伝え下手」「チームはまだまだ全然強くない」。ご自分やチームの実力について、驕ることなく控え目にお答えくださった矢澤さん。ですがお話しぶりは全体的にロジカルで非常にわかりやすく、その瞳からは確固たる信念と静かに燃える闘志を感じることができました。仲間とともに助け合いながら人として成長できる法政ORANGEが、大学アメフトの西高東低を崩すことを期待しています! 貴重なお話をありがとうございました。


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