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東洋英和バスケ部川口史高監督「憧れのNBAカリー選手と部員たちが…」指導者の信念と熱い思い

東洋英和女学院中学部・高等部バスケットボール部

監督:

川口史高(かわぐち・ふみたか)さん

小学3年からバスケをはじめ、佐世保北高等学校から筑波大学へ進学。卒業後は東洋英和女学院中学部・高等部の教師を務めながら同校バスケ部監督として指導。プレーヤーとしての顔も持ち、地域リーグチームRBC東京の元キャプテン。クラブ選手権全国大会優勝。他に2つの3x3チームと、3on3のチームに所属。2023年、Fair hope女子バスケットスクールのコーチに就任。

ひと目でわかる! チームの特色

  • バスケを通じた人間形成
  • 短時間練習でスキルアップを目指す
  • 長期休暇に様々なイベントを開催

短時間で効率よく行う、学ぶ。それは、仕事や勉強など様々な場面における理想形ですが、部活動でも“短時間で効率よく”を実践している運動部があります。

体育館の裏手には東京タワーが、校舎から門を出れば六本木ヒルズが目前に迫る、大都会に位置する東洋英和女学院中学部・高等部。同校の教員で監督の川口史高さん率いるバスケットボール部は、短い日は僅か30分、長い日でも1時間半ほどの練習時間でありながら、着実にスキルやチーム力を高めています。

経験豊富な現役プレーヤーでもある川口さんに、チームや指導の特徴、心がけていることや競技を通して学べること、今後の展望などをお聞きしました。

監督は、複数のチームに所属する現役プレーヤー

ーまずは、バスケのご経歴から教えてください。

小学3年から今に至るまでバスケをずっと続けています。筑波大学卒業後はバスケで食べていくという選択肢も考えましたが、当時の自分は自信を持てず、別の道を選びました。それが教師だったのは、指導という形でバスケに携わることができると思ったからです。

新卒で東洋英和女学院中学部・高等部に着任し15年、監督も同期間やらせていただいています。一方で、教師をやりながら社会人チームにも昨年までは選手として所属していました。今もそのチームのサポートスタッフを務めています。選手時代は主将を務め、全国大会優勝も経験しました。

ー川口さんのInstagramのプロフィールには、いくつものチーム名が書いてあります。

1つがその社会人チームであるRBC東京ですね。会社員やストリートバスケの選手など、いろいろなバックボーンを持った人たちが集まっています。監督を筆頭に、熱量がとても高いチームです。そこから、3x3や3on3(※)のチームからお声がけをいただいて、結果、合わせて4チームに所属しています(笑)。

※どちらも3人制バスケットボールを指すが、3x3は国際バスケットボール連盟(FIBA)が国際競技として推進しているスポーツで統一ルールがあり、オリンピック正式種目でもある。対して、3on3はストリートバスケとも言われ、ローカルルールのもとで行われる。

大事なのは、“前向きなマインドセット”

ー現役選手としてのさまざまなご経験や実績がご指導に活かされていると思いますが、大事にしていること、心がけていることを教えてください。

単にバスケが上手くなればいいということではなくて、人として大きく成長してほしい。彼女たちが卒業したその先のことも視野に入れながら指導をしています。

具体的にはチームと個人がそれぞれ持つ目標に向かってどうすればいいか、を考えてもらうようにしています。

全体の目標は"もっと応援されるチーム”と“信頼されるチーム”です。そのために部員たちが考えたのは、自分たちの立ち居振る舞いや練習に向かう姿勢から意識すること。ゲームスタイルなら、どんなに強い相手でもアグレッシブにディフェンスをする。目指す得点を決めて、1点でも成功したら会場を巻き込むくらい盛大に喜ぶ。そのようなことを話し合いました。

個人の目標に関しては、なりたい理想の自分や、なりたいプレーヤー像を練習後のミーティングで発表することにしています。また、大きな試合の前後などに具体的にシートに書いて提出する時間を設けています。

加えて、それに近づけているか、そのための行動ができているかを振り返ってもらいたいんです。そのために、「その日に自分ができたことを思い返して寝るようにしよう」と伝えています。

このように自分ができたことを認識する習慣をつける“前向きなマインドセット”って、目標設定と同様に生きていくうえですごく大事だと思うんです。就寝前のルーティーンとして身に付くよう、毎日そういった時間を作ってもらいたいと思っています。

なりたい自分を描くことの大切さは、毎年春に外部の方にお願いしているメンタルトレーニングの中で教えていただいています。そのため中学1年生は入部してすぐにそういった考え方を学ぶことができます。
すごく面白い内容で、自分も影響を受けて指導法も変わった部分がありますね。

ーどんな変化がありましたか。

とにかく勝たなければいけない。上手にさせなければいけない。以前は、これらが絶対に正しいことだと思い込んでいました。少しのはみ出しも許すまじと執着して、ストイックだったんです。

高校生の大会の目標を都大会ベスト32と置いていますが、前はこの言葉だけが宙に浮いていました。掲げたのはいいけれど、私もみんなもベスト32の意味することが、どういうものかわからず、そこへ向けての行動をするどころか、考えようともしませんでした。

ですが、目標に近づくためのやり方や壁にぶつかった時、挫折した時の乗り越え方等をその講演で学ぶことができて、目の前のことと目標をつなげることができたのです。

ー部員のみなさんは、中1の時点で知ることができるんですね。

勉強はもちろん、自己実現をする時にも絶対に役立つと思います。そのおかげもあり、部員はみんなすごくポジティブな思考を持つことができています。

友達同士やクラスで軋轢が生じた時でも、みんなプラスの声がけをすることができるし、自分たちが負けた試合でも、心から素直に相手チームを讃えたり、応援したりしています。

また、部員54名に対して体育館が手狭なんですね。でも、文句や不満を言うことなく、置かれた環境下で最大限の成果を出すというマインドで練習ができています。

先述した“なりたい自分“についても、例えば「河村勇輝選手になりたい」と具体的な選手名を書く生徒がいるのですが、選手を分析したうえで、書いた理由もしっかり言語化できるんですよ。他に、「頼られた時に優しい言葉をかけられるようになる」といった人間性に触れたことを書いてくれる生徒もいます。

「教師冥利に尽きる」という言葉は本当だな、と(笑)。自分の生徒ながら素晴らしいと誇りに思いますね。

このことは、我が校がキリスト教であることも関係していると思います。優しく愛を持って自分も他人も大事にするという教えが基本にあることで、さらにそのメンタルトレーニングが響いてくる。そこから、人間的に大きな成長ができることが、うちの部が大事にしているところであり、強みでもあります。

中高一緒に活動。まさにファミリーのよう

ー先ほど部員は54名とお聞きしました。チームの特徴を具体的に教えてください。

ほとんどが初心者です。ミニバス経験者もいますが、学年に1人いたら御の字です。スポーツ推薦はなく、希望者は全員が入部できます。

また、縦も横もつながりが強固ですね。うちの学校は全員が部活に入ることになっているので、クラス以外の所属場所が必ずあります。文化祭は部活ごとに行うなど、その単位で行動することも多いです。

しかも、どの部活も中高一緒に活動し、基本的に生徒主体で行なっています。部長や庶務、会計などの他に学年ごとに係があり、それぞれ仕事を担っています。

バスケ部は大会会場に体育館を提供する頻度が多く、部員はその準備をします。運営や設営って、一部の人間だけが動いて他の人間は何もしないという構図になりやすいと思うのですが、彼女たちは違います。キャプテンを筆頭に、自分たちで役割分担をして、さっと会場運営ができてしまうんですね。

私が何か指示するまでもなく行なっているので、リーダーシップもホスピタリティも自然と備わっているのだなと感じます。

もしかしたら、下級生の中には、上級生を尊敬しつつも自分たちの方がもっとうまくやれると思う子がいるかもしれません。ですが組織の中に入れば、歯車の一部になることも必要なのだ、と。そう理解したうえで、いろいろなことを吸収しながら、上級生の指示に従っています。リーダーシップやホスピタリティは、このように上から下へと引き継がれていくのかなと思います。

ー中1と高3、この時期は子供と大人ぐらいの差を感じます。どんな関係で成り立っているのでしょうか。

お姉さん、お母さんじゃないですが(笑)、上級生が下級生の面倒を本当によく見てくれています。生活面もそうですが、プレーに関しても練習の合間や終わりにアドバイスをしたり、試合では感想を伝えたり。逆に下級生も上級生の試合を応援しに行くことも多いですから、先輩後輩であり、仲間や姉妹でもあり、まさにファミリーという感じです。

ー川口さんと部員とのコミュニケーションはいかがですか。年頃の女子です。

距離感は程よくありますね。何かあったらまずは自分たちで話し合い解決して、私に直接言う時は事後報告になっているパターンが多いです。

また、顧問は私以外に4人いて、女性が3人、男性が2人の体制です。指導は私がメインに見ていますが、他の顧問も積極的に活動に関わってくれています。生徒は自分の相談しやすい顧問に話をしますし、顧問間の役割分担もしっかりできているので、諸々含めてうちはやはりファミリー色が強いです(笑)。

6年間も行動をともにするので、試合によく出る子とそうでない子、意見を言える子とそうでない子などグループに分かれることもあります。ですが、大人になるのが早いというか、みんな折り合いをつけてちゃんと調和が取れるようになっています。

短時間で効率よく練習するコツ

ー練習方法も教えてください。

能力別にグループを分けることはせず、必ず部員全員で同じ練習をするようにしています。その中で、一人ひとりを見ることを心がけています。

能力に差はあるので、まずは難易度を中間レベルに設定し、これを基準にできている子たちにはさらに上の課題を与えるようにしています。一人ひとりを見て回るので、それぞれにボールの持ち方、手や肩の位置などを指導しています。

実はうちの部は、すごく練習時間が短いんです。練習日は月から土までありますが、平日は短いと30分、長くても1時間半しか取れないんですね。唯一、土曜のみ半日練習があります。日曜日には活動をしません。練習試合は、夏や冬の長期休みにまとめて行なっています。

練習が30分の日は、あらかじめ5分から10分くらいのメニューを複数決めておいて、サーキット形式で練習を行なっています。ボールを使わない日はありません。体幹や筋力を鍛えるトレーニングをするにしても、ボールを使ったものを取り入れています。

ー短時間で効率よく練習するコツもぜひ知りたいです。

形を教えるのと、それが的確に伝わるような言語化を意識しています。
その結果、短い言葉でも、何を言っているのかが認識できるようになるんですね。例えば私が「ボールをちゃんと返す」と言っても、コミュニケーションが取れていなければ「ちゃんと」の解釈に違いが出るでしょう。

ですが、我々は「ここではこういう止まり方をしてこう振り向いて、次の人がここに来るまで待ってボールを返すこと」という意味として共通認識ができています。
そういった土台を作っておいてドリル化することが、限られた時間内で効率よくできる工夫になるのかなと思います。
そして土曜に詰めて完成させて、試合につなげています。

また、あまりよくないことかもしれませんが、試合の状況や様々な局面を判断して実行するオープンスキルとは逆の方法を指導しています。
判断材料を減らして、一旦、あるパターンで対応できる技術を身につけるんですね。試行錯誤ではありますが、今のところ短時間練習ではこのやり方が成果として手応えを感じています。

NBAのカリー選手とのセッションに大感激

ー通常の部活動以外にも、さまざまなお取り組みをされているそうですね。

NBAのステフィン・カリー選手(ゴールデンステート・ウォリアーズ)の来日イベントを、うちの体育館でやっていただきました。富永啓生選手と三谷桂司朗選手もいらして、本当は3人だけでトークショー等をする企画でしたが、カリー選手自らが部員たちとセッションしたいと言ってくれたのです。

急遽決まったことなのでてんやわんやでしたが、一緒にバスケをする瞬間を持つことができました。全員にサインもしてくれて、みんなもう大感激ですよ。私が一番興奮していましたけど。

カリー選手は、すべての若者にスポーツを楽しむ機会を与えたい、という強い思いを持って自身のブランドを立ち上げられています。このブランド立ち上げの際にカリー選手からのメッセージVTRとともに、うちの体育館には日本初の「カリーコート」の称号がプレゼントされました。現に、体育館の床には大きなロゴがペイントされています。

カリー選手の意志を継いで、他の学校さんや大会等に体育館を提供しています。

カリー選手の他にも、バスケに精通した方々に来ていただいています。こうした取り組みの目的は、部員たちの実体験を増やすことにあります。

もともと練習時間が短いうえ、長期休みには練習のできない日が一定期間あるんですね。それでも、その少ない活動時間をこのようなイベントに置き換えるだけの価値があると考えています。NBA選手をはじめ、一流のテクニックを直接見たり、一緒にプレーしたり、直接お話を伺ったり、夢を与えてもらうことのできる経験は何ものにも代え難いことです。部員たちには大きな学びと財産になっていると思います。

柔軟に受け入れてくれる学校にも感謝しています。新しい試みを面白いと捉えてくれることが多いんですね。ですから、私自身も企画を立てることへのやりがいを感じます。

ー最後に、こちらの部に入りたいと思っている人に向けて一言お願いします。

バスケに興味があり、自分が成長したいなと思う人はぜひ入部してください。
自分の良さや仲間の大切さがわかり、自信を持って自分の力を発揮することができます。

卒業生にも今の部員たちにも共通して言えるのは、自己肯定感がとても高いこと。自分というものがしっかりあるんですね。だからこそ、他者を受け入れリスペクトもできるのです。そして、年代の異なる卒業生が一度に来る日もあるほど、学校や部活を愛する気持ちが強いです。みなさんも、バスケを通して、かけがえのない仲間を作ることができると思います。

「部員たちを誇りに思う」と頬を緩ませながらお話ししてくださった川口さん。ですが、指導でコートに入った途端に表情が引き締まり、体育館全体がピーンと張り詰めた空気に。対する部員のみなさんも真剣そのもの。短時間練習だからこそ生まれる、集中力や気合いに圧倒されました。また、カリー選手によるイベント等、練習以外の取り組みもバスケに対する意欲をさらに高めてくれそうですね。貴重なお話をありがとうございました。


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